高強度合金における疲労変形組織の形成と疲労き裂発生に関わる現象を見直し、飽和転位下部組織の形成後、どのような局所変形集中が生じて微小き裂(粒界割れや擬へき開割れ)を形成するのか、転位の局所集団励起運動の視点から新しい学理を構築する。すなわち、局所的な結晶界面に生じる「ひずみ不整合」とそれに起因する局所変形、内部疲労き裂発生に至る実験的検証とモデルの確立を得ることが目的である。 平成30年度は最終年度であり、不均一変形が顕著なnear-α型Ti合金を主たるモデル材に用い、(1)疲労損傷の変化と飽和転位下部組織との対応、(2)微視割れと対応する変形組織と変形モード、(3)想定される微視割れ面に生じるせん断応力場成分の緩和と微小き裂成長に及ぼす結晶配向の影響、 (4)転位の集団運動の理解に基づいたひずみ不整合を緩和する耐疲労組織設計について検討した。ひずみ不整合、微視割れ、同一結晶粒内での微視き裂成長、隣接結晶粒への微視き裂成長・微視き裂の合体、主き裂選択という一連の素過程を結びつけた高強度合金の疲労き裂形成モデルを提示することに成功した。 さらに、Dwell疲労によりクリープが重畳する状況、転位セル組織を形成する純金属型の疲労、大きなせん断ひずみが導入される転動疲労についても比較検討を行い、飽和転位下部組織とボイド形成の視点から微小き裂形成との対応を統一的に議論する準備を整えた。今後は、転位の集団運動の理解に基づいたひずみ不整合を緩和する耐疲労組織設計と長寿命材質制御指針の開発を高度化する。
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