研究課題/領域番号 |
16K06771
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
趙 研 大阪大学, 工学研究科, 助教 (00633661)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 引張特性 / 疲労特性 / 延性改善 / 変形機構 / 双晶変形 / マルテンサイト |
研究実績の概要 |
平成28年度は、β相の安定度の尺度であるe/a(1原子当たりの価電子数)が等しいTi-Mn合金とTi-Mn-Mo合金を作製し、力学特性、変形機構について解析することで、Mo添加が変形機構に及ぼす影響を調査した。 引張試験および疲労試験を実施した結果、Ti-Mn-Mo合金の方が、優れた強度-延性バンランスと高い疲労強度を示すことが明らかとなった。各試験後の変形組織を調査した結果、Ti-Mn-Mo合金では、{332}<113>双晶変形が生じることで高延性となり、疲労き裂の進展も抑制されていることが明らかとなった。{332}<113>双晶が疲労特性を向上させることは、本研究により得られた新しい知見の一つである。 次に、Ti-Mn-Mo合金でのみ{332}<113>双晶変形が生じた原因を調査するため、4次元組織解析の一つとして、引張試験を行いながらin-situ光学顕微鏡観察を実施し、変形初期における変形機構を調査した。その結果、Ti-Mn合金では、シュミット因子の大きいすべり変形や{112}<111>双晶が発現するのに対して、Ti-Mn-Mo合金ではシュミットの法則によらず、{332}<113>双晶が優先的に発現することがわかった。そこで、{332}<113>双晶の発現挙動を明らかにするため、α"マルテンサイトの形成が容易となる93 Kで引張試験を行ったところ、Ti-Mn合金においても{332}<113>双晶が発現した。また、α"マルテンサイトの形成を抑制することができる酸素を微量添加したTi-Mn-Mo(O rich)合金について室温で引張試験を行った結果、{332}<113>双晶は発現しなった。以上のことから、①Mo添加により{332}<113>双晶の発現が誘起されること、②それはMo添加によりα"マルテンサイトの形成が容易になるためであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は引張特性の評価と変形組織の解析を実施する計画であったが、それに加え、疲労特性の評価および{332}<113>双晶が疲労挙動に及ぼす影響についても調査を行った。この点は、当初の計画以上に進展している点である。 一方、当初の計画通り、EBSDや高分解能TEMを用いた詳細な組織解析および4次元組織解析としてin-situ光学顕微鏡観察を実施したものの、in-situ中性子回折測定およびEBSD測定については、当初の計画を変更し、単結晶試料を用いて実施するため、平成28年度の実施を見送った。これは、EBSDや高分解能TEMを用いた多結晶試料の詳細な組織解析を実施した結果、単結晶試料を用いた方がより詳細な調査が可能となることが判明したためである。なお、単結晶試料の作製については、平成28年度に実施しており、その作製法をすでに確立している。 以上、総合的に評価した結果、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の成果からTi-Mn-Mo合金における{332}<113>双晶の発現には、α"マルテンサイトの形成が影響を及ぼしていることが明らかとなった。一方、非熱的ω相や変形誘起ω相の影響は認められなかった。そこで、平成29年度は、MoをVやNb等に置換した合金についても同様の解析を行うことで、{332}<113>双晶の発現とω相の関係について調査を行う。さらに、各合金について単結晶を作製し、4次元組織解析を行うことにより、α"マルテンサイトやω相の形成と{332}<113>双晶の発現の関係についてより詳細に調査を行う。 さらに、平成28年度の成果として得られた、{332}<113>双晶が疲労き裂進展を抑制するという新しい事実を基に、Ti-Mn系合金のさらなる疲労特性改善を目指す。
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