研究課題/領域番号 |
16K06783
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
染川 英俊 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (50391222)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 材料工学 / マグネシウム / 変形双晶 / 結晶粒界 / 偏析 / 力学特性 |
研究実績の概要 |
微視的・巨視的な実験検証および計算科学の使用によって、下記二点を明確にした。 (1)粒界すべりを活用した延性向上の観点から、ナノインデンテーション局所内部摩擦特性に及ぼす溶質元素の効果について調査した。一般的に、内部摩擦と粒界すべりには相関性があり、内部摩擦特性を表すtanδの値が大きいほど、粒界すべりの寄与が大きいことで知られている。マグネシウムも他の金属材料と同様に、tanδの値は添加する溶質元素によって変化し、マグネシウムの粒界すべりを活性化させる溶質元素(リチウム)は、高いtanδ値を示すことを確認した。第一原理計算を用いた物理・材料定数の探索より、粒界すべりの抑制/助長効果がある溶質元素は、粒界エネルギーと密接な関係があり、粒界エネルギーを減少/増加させることを明確にした。 (2)破壊靱性改善の観点から、透過型電子顕微鏡に装填可能な引張ホルダーを使用し、変形双晶の発生や、き裂進展/伝播挙動に関するその場観察を実施した。添加元素の有無に関係なく、変形双晶は、結晶粒界から発生することを観察した。他方、合金化に伴って、き裂進展/伝播挙動は、純マグネシウムと異なる様相を呈し、Mg-Y合金のき裂は、母相と変形双晶界面よりも、結晶粒界に沿って進展しやすく、昨年度の変形双晶界面に溶質元素が偏析したバルク材とも異なることを確認した。偏析等を活用し、変形双晶界面エネルギーを制御することが、き裂の進展/伝播経路や破壊靱性の改善に有効であることを示唆した。一方で、マグネシウムの「変形双晶界面」脆化・強化に及ぼす溶質元素の影響について検討した。変形双晶界面は、従来のRice-Wangモデルに基づく「結晶粒界」脆化・強化機構の考えとは異なり、溶質元素の表面偏析に大きく依存することを究明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時と昨年度の研究推進方策では、①微視的および巨視的力学応答に関する実験検証に注力し、②計算科学にて使用する界面モデルを構築すること、の二点を本年度研究計画としていた。前者では、ナノインデンテーション法とその場電子顕微鏡観察を想定していたが、当該装置使用に関する経験やノウハウを活かすことができたため、トラブルや問題等なく、想定以上の研究遂行ができた。後者では、マグネシウムの双晶界面モデルの構築を予定していたが、マグネシウムと代表的な二元系合金の基礎物性値である双晶界面、粒界および表面エネルギーの各値取得に成功した。また、これら計算値(各界面、表面エネルギー)と実験値(破壊靱性)との比較によって、マグネシウムの双晶界面脆化・強化モデルの提案に至っている。以上のことから、「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
前記のとおり、当初研究計画以上の進展を遂げ、残す課題は、本研究の主目的である「特性向上をもたらす最適溶質元素を明確にすること」となった。微視的・巨視的な実験検証については、継続実施しながらも、計算科学を活用し、物理・材料定数の探索を深掘りし、本研究で取得した実験結果と比較検討する予定である。他方、本課題で使用する多結晶バルク材は、大角粒界や亜粒界をはじめ、多種多様な結晶粒界を含むため、力学特性は、変形双晶界面だけでなく、結晶粒界の影響も受ける。本年度の研究遂行で生じた研究計画(時間)を有効活用し、主として大角粒界を考慮した結晶粒界ならびに変形双晶vs.溶質元素との相関性をより定量的に検証する予定である。なお、次年度は、本研究課題の最終年度である。研究総括と研究成果発信、特に、学会発表や学術誌への論文投稿を積極的に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:ナノインデンテーション装置使用頻度の増加に伴い、圧子先端の摩耗や劣化を鑑み、新規圧子購入を想定していた。しかし、素材の硬度特性が他金属と比較して小さかったことから、想像以上に摩耗や劣化することがなく、新規に圧子購入する必要がなかった。また、当初参加を想定していた国内学会が、他学会と日程重複したため参加・発表できず、関連経費の繰越が発生した。なお、その他の使用項目は、本年度の当初計画どおりであり、次年度への繰越金額は、主として前年度の差額である。 次年度使用額の使用計画:前述のとおり、実験検証を継続実施する。そのため、繰越額は、JIS等で規格され、寸法精度が要求される試験片加工費や、SEM/EBSDをはじめとする微細組織観察に必要な消耗品に充当する予定である。また、次年度が研究遂行の最終年度であるため、成果発信時に生じる学会発表(旅費や参加登録費)や学術論文投稿(英文校正や投稿費)にも充当する予定である。
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