研究実績の概要 |
多孔性高分子基材膜に分子鎖長を制御した高分子鎖を導入することで、細孔径をナノサイズで制御するとともに、ガス分子とグラフト鎖の相互作用効果を利用することにより、水素ガスを選択透過する機能性膜の開発を目指す。今年度は、イオン照射による核飛跡を利用したグラフト膜の開発を進めた。これまでSi-Oの三次元構造が、水素分子を選択的に透過することが知られていることから、予めシリルオキシ構造を有し、グラフト重合性を示すp-スチリルトリメトキシシラン(STMS)および3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(3-MPMDS)をビニルモノマーとして用いた。基材膜は、耐熱性および耐久性に優れたエチレンテトラフルオロエチレン共重合(ETFE)膜とした。 量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所のイオン照射施設TIARAを利用し、ETFE膜に56 MeV 15N^3+をフルーエンス3×10^8 ions/cm^2で照射後、STMS、3-MPMDSを24時間グラフト重合した結果、それぞれグラフト率1.9、0.5%に達した。差圧法を利用したガス透過試験において、グラフト膜の水素、酸素、窒素、二酸化炭素およびメタンのガス透過性調べた。STMSグラフト膜のガス透過度は、イオン照射したのみの基材の1/14となり、核飛跡内にグラフト重合鎖が充填されたことを確認した。窒素、酸素、二酸化炭素、メタンに対する水素透過比は、それぞれ3.8, 3.1, 1.3, 3.1倍となり、核飛跡に導入したSTMSグラフト鎖が水素ガスの選択透過に有効に機能したことを見いだした。
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