固体高分子形燃料電池(PEFC)が車載用途などへ本格普及するためには軽量かつ安価なセパレーターの開発が不可欠である。昨年度まではSUS316Lステンレス鋼に対して、電気化学的窒化を行い、ガス拡散層(GDL)との接触抵抗(ICR)の低下を図るとともに、結晶粒微細化の効果を検討した。本年度はNiを含まないフェライト系ステンレス鋼をセパレータ候補材料として取り上げ、電気化学的窒化挙動とICR改善効果に対する結晶粒微細化の効果を調査することを目的とした。 硝酸‐硝酸塩溶液中でSUS445J1ステンレス鋼(通常材、結晶粒微細化材)を定電流カソード分極(電気化学窒化処理)し、カーボンペーパー(GDL)とのICR、模擬PEFC環境中での分極挙動および表面の化学状態を評価するとともに、実際にセパレータを試作してPEFC単セルの発電性能試験を行った。 本電気化学的窒化処理によってステンレス鋼とGDLとのICRは減少し、通常材で6.6 mΩ cm2、微細化材で4.7 mΩ cm2と満足すべき値が得られた。また分極試験により、電気化学的窒化処理前後で耐食性が維持されていることを確認した.XPS分析によれば、ステンレス鋼表面に窒化物のピークが認められ、導入された窒化物は模擬PEFC環境中に晒された後も安定であり、特に微細化材でその効果が優れていた。この処理を施したSUS445J1ステンレス鋼(微細化材)をセパレータとして単セル発電試験を500時間行った結果、未処理鋼の場合に比べて平均セル電圧は21 mV向上し、グラファイトセパレータを用いたセルにほぼ匹敵するセル性能を示したことから、電気化学的窒化処理をしたSUS445J1ステンレス鋼(微細化材)はPEFC用セパレータ材として非常に有用であるとの結論を得た。
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