研究課題/領域番号 |
16K06802
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
津田 大 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (80217322)
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研究分担者 |
尾崎 友厚 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (50736395)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 複合材料 / N添加 / 時効 / 機械的特性 / Ti2C / Ti(C,N) |
研究実績の概要 |
平成30年度は、以下(1)~(2)についての実験と解析を行った。得られた成果は下記の通りである。 (1)N添加がTi/TiC複合材料のTiマトリックスおよびTiC粒子の硬度に及ぼす影響を調べたところ、マトリックスの硬度はNが0%では200Hv、5%では260Hvであり、その間の増加割合は緩やかである。それ以上のN添加で硬度の上昇は急激となり、10%で540Hvに達した。この急激な硬度増加はNがマトリックス中に固溶することが原因と推測される。一方、TiC粒子は0%Nでは3040Hvであり文献(3170Hv)よりやや低い硬度値である。これはTiリッチなTiCの硬さは、化学量論組成TiCの硬さに比べ低いことが原因であると考えられる。また、Nを1%添加すると硬さは1800Hv前後まで急激に低下し、さらなるN添加量の増加に伴いその値は漸減する。本複合材料では添加されたNはTiCに固溶してTi(C,N)を形成すると考えられ、かつTiNの硬さはTiCのそれに比べて低い。つまり、N添加によりTi-richでかつNを固溶したTi(C,N)が形成され硬度値が急減に低下したと考えられる。 (2)少量のN(~2%)を含む複合材料を600℃で時効し、0.2%耐力および伸びのすなわち本複合材料の機械的特性を調査した。例えばN1%添加の場合、時効前の0.2%耐力は550MPaであったが、10時間時効で766MPa、100時間時効で813MPaまで強化された。また、伸びは7.3%から10時間時効で11.2%まで上昇したが、100時間時効では逆に8.0%まで低下した。今回の評価により、Ti-1N-5TiC複合材料の600℃、10時間時効で最も良い機械的特性を示す材料を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度の成果は上述の通り(1)N添加がTi/TiC複合材料のTiマトリックスおよびTiC粒子の硬度に及ぼす影響、(2)少量のN(~2%)を含む複合材料を600℃で時効した場合の0.2%耐力と伸びの変化を明らかにしたことである。 これまで、少量のNを添加したTi/TiC複合材料の時効による微細組織変化の観察、またこれに基づく引張試験における硬度(ビッカース硬さ)、強度(引張試験における0.2%耐力)、延性(塑性伸び)の変化は知られていない。今回の機械的性質の評価により、我々が目指している「強度と延性に優れた、すなわち強靭なTi基複合材料創製」の目途が得られたと考えている。この点では、本年度の研究進捗状況は順調といえる。また、これまで透過型電子顕微鏡観察を通して、TiC中へのTi析出はN添加および時効処理のどちらにおいても、[011]TiC//[1120]Ti、(011)TiC//(0001)Tiという全く同様の方位関係を有していること明らかにしたことは大きな成果である。 また、われわれはN添加あるいは時効処理によりTi/TiC複合材料中のTiC粒子中へのTi析出について報告し、TiC中へのTi析出にはTi2C(結晶構造:Fd3m(立方晶系)およびR-3m(三方晶系))が重要な役割を演じていることを指摘してきた。そこで、平成30年度に電子回折の解析からTiC粒子中のTi2Cの高温度域(800℃付近)での相安定性を明らかにし、それに基づきさらに詳細な析出メカニズムの考察を行う予定であったが、準備に想定以上の時間が必要となり予定通りには進まなかった。そのため、研究成果の公表(講演発表、論文投稿)が十分行えなかったことを考えると多少遅れ気味と判断せざるを得ない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度には、(1)透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)によりTiCと析出Tiとの界面の高分解能観察、また(2)走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope : STEM)および高角散乱環状暗視野法(High Angle Annular Dark Field:HAADF)による評価を行う。そして、(3)電子回折法(Selected Area Diffraction:SAD)によりTiC粒子中のTi2Cの800℃付近の高温度域での相安定性を電子回折により調べることとする。 これまでの電子顕微鏡観察結果からTiC中へのTi析出の結晶学的方位関係は、[011]TiC//[1120]Ti、(011)TiC//(0001)Tiであることは示されているが、TiC/Ti界面の原子レベルでの電子顕微鏡観察観察は行われていない。また、Tiマトリックス/TiC粒子/析出TiのHAADF観察等はまだなされていない。TEMばかりでなく、STEMとHAADFによる原子の種類の違いをコントラストで識別可能とするこれらの手法を用いることで、TiC中へのTi析出メカニズム解明のための新しい情報を得る。 一方、TiC中へのTi析出にはTi2Cが大きくかかわっていることは分っているが、この相の高温度域(800℃付近)での安定性はいまだ不明である。Nを含まない場合、そしてNを含む場合について当該温度付近の相安定性をTEMとSADにより調べる。上記の実験で得られる結果をもとにTiC中へのTi析出メカニズムについて考察を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度には、TiC中へのTi析出に関して重要な役割を果たすTi2Cの高温度域(800℃付近)での相安定性についてのTEM観察およびSAD解析が十分には行えなかった。今年度は、上記の通りTEM、SAD、STEMおよびHAADF等により、原子レベルでの超微細組織観察および高温度域でのTi2Cの安定性について調査を行い、TiC中へのTi析出機構解明のための情報を得る予定である。 これらは現有の装置を用いて実施し、少額の物品(消耗品)購入を行うだけで対応可能である。平成31年度に繰り越した予算は多くはないが、次年度は当該研究の期間延長が認められた真に最終年度となる予定であり、主に学会発表、英文校正費、データ整理等の作業者への謝金等の支出を計画している。
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