研究実績の概要 |
溶融金属を取り扱う加工プロセスにおいて、流動性の基礎物性である粘度を知ることは流動特性を検討する上で必要不可欠である。しかし、鉛フリーはんだの粘度データに関しては、粘度測定で用いているるつぼ回転振動法が容易でないことから、信頼性のある実験データは殆ど存在しない状況であった。また、鉛フリーはんだは表面に酸化被膜を形成すること、低粘度であるということからるつぼ回転振動法に代わる粘度測定法を見出せない現状であった。以上の問題点を解決するため、共軸二重円筒回転粘度計を還元雰囲気にしたグローブボックス内に設置することにより、簡便に粘度測定が行える環境システムを構築した。鉛フリーはんだ試料として、Sn-4.0 wt.%Ag-0.5wt.%Cu, Sn-3.0 wt.%Ag-0.5wt.%Cu, Sn-1.0 wt.%Ag-0.7wt.%Cu, Sn-0.7wt.%Cuの4種類を選択した。本システムで測定した結果、いずれの合金も温度に対して負の温度依存性を示し、アレニウスプロットを取ると良好な直線関係が得られ、温度と粘度との評価式を作ることに成功した。アレニウスプロットで得られた粘性流動の活性化エネルギーと粘度の値は共に試料の違いによる大きな差が見られなかったことから、溶融状態における構造にも大きな差が見られなかったことも明らかとなった。しかし、粘度における成分の影響を系統的に見出すまでの測定精度は得られなかったことは課題である。測定後の試料のSEM観察より、表面の酸化被膜は除去しきれないことが明らかとなっており、その影響が本システムで得た粘度に影響を与えたものと推測される。温度と粘度との評価式の構築はできたことで回路基板と鉛フリーはんだとの粒子法による濡れ性シミュレーションに資するデータ整備は本研究を通じて可能となっており、高精度化に向けた研究への第一ステップは達成された。
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