研究課題/領域番号 |
16K06824
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
向井 康人 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30303663)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 分級 / 膜分離 / ナノ粒子 / 超音波 / 電場 / プラズマ / 溶液環境 |
研究実績の概要 |
平成28年度は分級実験を行うための基礎実験をひととおり実施し、準備が十分に整った状況に至ったので、平成29年度は2成分系の分級実験を本格的に遂行した。粒子径の異なる大小2種類のポリメタクリル酸メチル粒子を使用し、大粒子と小粒子の中間の細孔径をもつ高分子精密濾過膜で各種単成分系懸濁液および2成分混合系懸濁液の定圧濾過を行った。超音波照射を施す際は、濾過器を超音波水槽に浸漬させ、周波数28kHz、出力電力600Wの条件で超音波を照射した。 小粒子単成分系の濾過における小粒子の透過特性に及ぼす超音波照射の影響を検討した結果、超音波非照射では小粒子による膜細孔内の閉塞に伴い、濾過速度および小粒子透過率が急激に減少したが、超音波を照射することにより濾過速度および小粒子透過率の顕著な改善がみられた。これは、超音波照射によって懸濁液中の小粒子が振動し、精密濾過膜への付着を抑制したためと考えられる。この結果から、精密濾過での超音波照射は、膜孔径より小さな粒子の透過性能を大幅に向上させる効果があることが明らかとなった。一方、大粒子単成分系の濾過における大粒子の透過率は、超音波照射の有無によらず常に0であった。 超音波照射によって小粒子透過特性が変化したため、分級操作においても効果を示すことが期待される。そこで、小粒子および大粒子の2成分混合系における濾過実験を超音波照射・非照射の各条件で行ったところ、分級操作においても超音波照射による濾過速度および小粒子透過率の改善がみられた。この結果から、超音波照射は大小2成分の分級性能を向上させる非常に有効な手段であることが明らかとなった。 また、精密濾過膜に大気圧プラズマを照射することで膜の表面及び内部に超親水基を形成することができ、これにより膜表面での大粒子の閉塞及び細孔内部での小粒子の付着・滞留を極限的に抑制することができることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超音波照射による分級の高性能化とプラズマ表面改質による膜の超親水化については、ほぼ計画通り実験的検討が進行し、期待する成果が得られた。一方、電場印加の影響の検討については、現状期待通りの実験結果が得られておらず、実験装置や実験方法、電場印加条件などの見直しの必要性に直面している。これまでの実験結果から、期待する効果を得るための方策をいくつか得ているので、平成30年度当初に当該研究項目の遅れを取り戻す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
主として、次の6点より研究を進める。 (1)プラズマ表面改質による膜の超親水化の影響:大気圧プラズマの照射により膜ファウリングを極限的に抑制することができることを明らかにしたので、今年度もプラズマ照射の検討を継続し、最も表面改質効果の高いガス種や照射方法・条件を探索する。(2)2成分系ナノコロイドの分画性能に及ぼす超音波照射の影響:超音波の照射により2成分系の分画性能を改善することができることを明らかにしたので、今年度も超音波照射の検討を継続し、2成分を効果的に分画するための照射条件や照射方法を探索する。(3)2成分系ナノコロイドの分画性能に及ぼす電場印加の影響:まず、ナノ粒子の電気泳動速度と粒子径の関係を究明し、小粒子を優先的に移動させる電場印加条件を探索する。この結果を基礎として、2成分系ナノコロイドの定圧濾過試験を行い、超音波に加えて電場を併用することにより分画性能がより一層向上することを証明する。(4)多分散ナノコロイドのエレクトロ・アコースティック膜分離による分級:多分散ナノコロイドを対象として超音波と電場を適用させつつ定圧濾過試験を行い、ナノ粒子の分級性能に及ぼす超音波や電場の適用条件の影響を明らかにする。これらのデータに基づき、分級性能を自由自在に制御するための操作方法について種々探求する。(5)膜面剪断流による分級の高性能化:膜面上に形成される大粒子の堆積層が小粒子の膜透過に対して予想以上に大きな障壁となり、超音波照射と電場印加だけでは期待した分級効率が得られない場合も考えられるので、撹拌型濾過器やクロスフロー型濾過器を用いて膜面に剪断流を作用させる手法の適用も試み、超音波や電場との相乗効果を期待する。(6)最適操作指針の提出:これまでの研究成果を総括し、また、速度的な観点からの検討も加え、目的の分級精度と高い分離速度を両立する最適な操作指針を提出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)主要設備として電子制御式ラボ用膜分離装置を購入予定であったが、平成29年度に検討した研究項目は現有装置でもある程度目的の実験を実施することが可能であった。また、電場印加の実験的検討で期待通りの成果が得られなかったので、電子制御式ラボ用膜分離装置の購入は当該研究項目の見通しが立ってからにしたいとの考えに至った。以上の理由により、平成29年度は現有装置で実験的検討を進めることにした。 (使用計画)主として、電子制御式ラボ用膜分離装置に充てる予定である。
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