前年度は、各種素材の構成官能基が周囲の水分子を束縛する強さを時間の関数として指標化できる数値計算プログラムを開発し、種々の非イオン性素材に適用した。その結果、水分子のミクロ相互作用が非イオン性素材の分子運動性に強い影響を与えることを示唆した。 そこで平成30年度は、このアプローチを両性イオン性素材にも応用し、構成官能基の近傍における溶媒和のダイナミクスが耐ファウリング性能に与える影響を検証した。具体的には、両性イオン性素材の繰り返し単位を構成する荷電基が水と有機物のどちらを強く束縛するかを定量評価するため、水とメタノールの等モル混合溶媒系を対象に、荷電基近傍のミクロな溶媒和を分子動力学法によって解析した。検討対象の素材には、既往の研究で優れた耐ファウリング性能が報告されているスルホベタイン(SB)系とホスホベタイン(PB)系の両性イオン性素材を選定した。SBまたはPBを既述の溶媒と混合し、荷電基近傍における水とエタノールの溶媒和を解析した結果、アニオン基のごく近傍において、SBはメタノール分子を選択的に束縛するのに対し、PBは水分子を選択的に束縛するという対照的な傾向を示した。一方、カチオン基の近傍では、アニオン基ほど有意な差はないものの、PBがSBよりも水分子を選択的に束縛することが判明した。 以上の結果は、素材近傍の水分子や有機分子を束縛する強さが構成荷電基の種類によって異なることを示しており、本研究のアプローチは、各種素材の耐ファウリング性能をミクロな動的挙動と相関づけるための計算化学的な取り組みとして位置づけられる。
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