研究課題/領域番号 |
16K06832
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
山本 拓司 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (30358288)
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研究分担者 |
伊藤 和宏 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (80347525)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 晶析操作 / モデル廃食油 / テイラー渦 |
研究実績の概要 |
常温固体成分である飽和脂肪酸を多量に含んだ低品位廃食油を融液晶析によって精製し,バイオ燃料として利用することを目的として,平成28年度は以下の2項目を検討した。 第1に,シリンダーの冷却速度と回転速度を独立して制御可能な二重円管型晶析装置を用いて,2成分系モデル廃食油を対象とした融液晶析を実施し,飽和脂肪酸の初期濃度,シリンダーの回転速度,ならびにシリンダーの冷却速度が結晶の収率と純度に及ぼす影響をそれぞれ検討した。具体的には,パルミチン酸,ミリスチン酸,ステアリン酸のうちのいずれか1種の飽和脂肪酸と,燃料の主成分であるトリグリセリド(不飽和脂肪酸)からなる2成分系モデル廃食油を用いて,シリンダー表面に析出した結晶の成長速度と,結晶成長面(固液界面)における飽和脂肪酸のモル分率に対応する有効分配因子をそれぞれ求めた。なお,実験は現有設備である二重円管型晶析装置に加えて,温度プログラム機能を備えた低温恒温槽を購入して実施した。 第2に,融液晶析過程において形成される結晶の波形表面の画像を基に,テイラー渦などの非定常流れをモデル化し,当該モデルを用いた数値計算によって晶析槽内における速度分布および温度分布を求めた。その結果,波形表面に沿った周期的なテイラー渦の発生が確認され,テイラー渦の中心付近は比較的流速が小さく低温となっていることが確認された。渦の中心部は融液の凝固点以下の温度であり過冷却状態となっていることも示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では①2成分系モデル廃食油を用いた融液晶析と,②晶析槽内におけるテイラー渦の形成メカニズムの解明の2項目を予定していたが,いずれの項目においても当初予定通り順調に成果を挙げることができた。以下,その理由について項目ごとに記載する。 項目①については,晶析槽に挿入したシリンダーの冷却速度と回転速度を独立して制御することで,シリンダー表面に析出した結晶と残液の質量をそれぞれ測定し,結晶成長速度を求めた。シリンダーの冷却速度の制御が従来の装置では困難であったが,本科研費で購入したサーキュレーターを用いることで,精度の高い温度制御を実現できた。その結果,従来の温度プログラムを用いた場合に比較して,結晶の純度を示す有効分配因子が約2倍に増加することを見出した。また,飽和脂肪酸の濃度と融液の融点との関係式を飽和脂肪酸の物性を基に導出し,融液中の飽和脂肪酸の初期濃度,シリンダーの回転速度・冷却速度が結晶の収率ならびに純度に及ぼす影響を系統的に明らかにした。 項目②については,シリンダー表面に析出した結晶の表面形状を画像解析した結果,テイラー渦などの非定常流れのモデルを構築するとともに,当該モデルを用いた数値計算によって晶析槽内での温度分布および速度分布を明らかにした。その結果,テイラー渦の中心部分は融液の凝固点以下に保持されており過冷却状態となっていることが示唆された。 以上のように,いずれの項目に関しても当初予定通りに順調に進捗し,研究成果を挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は融液晶析実験を引き続き実施しデータを収集する一方で,実験データを基に操作条件が結晶成長速度または有効分配因子に及ぼす影響を検討する。溶質分配理論のモデル構築,ならびに結晶成長速度・有効分配因子の予測式の提案を目指す。特に3成分系へのモデル適用には各成分の濃度の定量評価が必要となるため,示差屈折率計を用いたHPLC分析などの分析手法を新たに検討する。
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