研究課題/領域番号 |
16K06845
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
工藤 真二 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (70588889)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | バイオマス / セルロース / 熱分解 |
研究実績の概要 |
本研究では、製紙産業において大量に発生し、資源量と供給量を担保できるセルロースを原料とする、熱分解からはじまる新たな化学変換プロセスを提案、実証することを目的とする。すなわち、糖化をはじめとする既往の液・固系セルロース変換に比して反応速度が圧倒的に速く、触媒、溶剤等を必要としない迅速熱分解によって無水糖を生成し、無水糖の改質によって基幹化合物を生成するハイスループット反応系を開発する。研究は三項目に分けられる:1)セルロース熱分解の主生成物であるレボグルコサン(LGA)およびLGAが触媒的に脱水して生成するLGOを高収率で製造するハイスループット熱分解反応器の開発、2)古紙やペーパースラッジの熱分解によるLGAの製造法開発、3)セルロース熱分解を起点とするバイオマス由来有用化合物(LGAやLGO以外)の製造。 1)では、昨年度に引き続き研究を行い、アップドラフト固定床型の反応器を作製して微結晶性セルロースの熱分解試験を検討した。1時間程度ではあるが35%程度の収率でLGAを連続的に製造することに成功した。LGAを含む熱分解揮発性生成物を固定層触媒で気相中in-situ改質してLGOの連続的製造試験を行った。触媒のスクリーニングや反応条件の最適化をとおして25%近くの収率でLGOを連続的に製造するに至ったが、触媒上への炭素析出、それによる触媒の失活が課題となった。2)古紙を原料とする検討は昨年度に実施し、適切な前処理を施せばセルロースと同等のLGA原料になり得ることを示した。3)バイオマス由来基幹化合物であるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)やレブリン酸を、糖を原料とする従来の手法より極めて温和かつ短時間あるいはクリーンな手法でLGOから製造することに成功した。加えて、LGO骨格を有する種々のアミン化合物を室温、水溶媒中でのマイケル付加反応により合成できることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究予定は、ドライ系でのLGO製造(セルロース熱分解と熱分解揮発性生成物の気相接触改質による)手法の確立、およびウェット系(冷却回収した熱分解生成物を用いた液相反応)も含む熱分解を起点とした有用化合物の新規合成法の開発であった。LGO製造手法の確立では、セルロースの熱分解にアップドラフト固定床型反応器を適用することでLGOの前駆体であるLGAを1時間程度の試験ではあるが35%の収率で連続的に製造することができた。昇温速度や二次気相反応の抑制等に課題があり目標とする収率60%には至らなかったが、次段階の試験(LGO製造)に進む目途を得た。続いて、熱分解反応器の後段に改質反応器を設置し、LGAを含む熱分解揮発性生成物を気相中でin-situ接触改質してLGOの連続的な製造を試みた。種々の触媒をスクリーニングした結果、当初より想定していたイオン液体担持触媒が最も高い性能を示し、改質条件の最適化を通じて同操作時間で連続的にLGOを製造することができた。ただし、触媒上へのコーク析出が甚だしく、触媒の活性が低下したことが明らかであった。 ウェット系での熱分解生成物の有用化合物への変換研究では、水とゼオライトや強酸性イオン交換樹脂などの固体酸触媒のみを用いてLGOからバイオマス由来基幹化合物であるHMFやレブリン酸を合成できることを明らかにした。この検討は昨年度にある程度目途を得ていたが、今年度は実験条件の最適化による収率向上に加え、触媒として希硫酸を用いた場合にはマイクロチューブ反応器により反応時間を厳密に制御すれば、100℃以下、僅か数分間の反応でより高い収率を達成可能であることを明らかにした。さらに、アルカリ水溶液中でのLGOの反応性を活かして、有機溶剤を必要としないマイケル付加反応によりLGO骨格を有するsp3リッチな種々のアミン化合物を合成することに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、古紙やペーパースラッジを原料とするLGA製造法の開発を主な目的として設定していた。しかしながら、この研究は原料の入手状況の都合により初年度に前倒しして検討し、一定の成果を既に示している。他の研究についても概ね想定した成果を達成済みの状況であるが、課題も見つかっている。ひとつは、セルロースの熱分解と熱分解揮発性生成物の改質によりそれぞれ製造するLGAとLGOの収率である。収率が想定より低い原因は既に明らかであり、それぞれ、熱分解昇温速度の向上と二次気相反応の抑制、触媒上への炭素析出の抑制、が解決手段である。これを考慮した反応器および触媒の開発を今年度は中心に行い、収率≧60%を達成することを目標とする。具体的には、反応器としては厳密な温度、反応時間の制御を可能にするマイクロチューブリアクター、触媒としてはイオン液体担持触媒以外の触媒、例えば固体塩基触媒等、を検討する予定である。 その他の研究開始当初の平成30年度の計画としてはジヒドロレボグルコセノン(DLGO)の製造と、引き続きバイオマス由来基幹化合物の製造研究を行うこと、が挙げられる。前者については、文献等の情報により、LGOを貴金属触媒の存在下で水素化することで室温でも選択的にDLGOが得られることが明らかになっているため、LGOを高収率で製造することがより重要な課題と考え、検討しないこととした。一方、基幹化合物の製造研究は、HMFやレブリン酸等をLGOから製造可能であることを既に見出しているが、LGOから製造可能な化合物のオプションを増やすことは重要であるため、引き続き触媒や反応系の開発を通して検討する。
|