本研究は製紙産業において大量に発生し、資源量と供給量を担保できるセルロースを原料とする、熱分解からはじまる新たな化学変換プロセスを提案、実証することを目的とする。すなわち、糖化をはじめとする既往の液・固系セルロース変換に比して反応速度が圧倒的に速く、触媒、溶剤等を必要としない迅速熱分解に依って無水糖を生成し、無水糖の改質によって基幹化合物を生成するハイスループット反応系の開発である。 セルロースの熱分解については、アップドラフト固定床型の反応器の採用により40%近くの収率で連続的にレボグルコサン(LGA)を製造することに成功した。LGA収率の目標値(≧60%)を達成するには至らなかったが、これは連続式で比較的大型の熱分解反応器においては高い収率である。古紙の代表例として段ボールを原料とする試験においても、適切な前処理を施せば純セルロースと同等の収率でLGAを製造可能であることを示した。LGAからは、水と固体酸触媒のみを用いるクリーンなプロセッシングによりほぼ100%の収率でグルコースを製造できることを示した。これは提案法が既往の糖化法に置き換わり得ることを示唆する結果である。一方、非プロトン性極性溶剤中で同様にLGAを固体酸触媒で処理すればレボグルコセノン(LGO)が比較的高収率(~40%)で得られることも見出した。LGOからは、水と固体酸触媒を用いた反応系、あるいはマイクリアクター内での鉱酸を触媒とする均相系反応で、ヒドロキシメチルフルフラールやレブリン酸等の有用な化合物を合計90%近くの収率で得られることを示した。加えて、LGO骨格を有する種々のアミン化合物を室温、水溶媒中でのマイケル付加反応により合成できることも示した。以上の結果により、熱分解によるセルロースの低分子化からはじまる一連の反応で多様な化合物を効率的に製造可能であることを明らかにした。
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