研究実績の概要 |
本研究では,鉄‐ビピリジン錯体内包ゼオライト触媒の電荷補償のために存在するNa+カチオン部分を他の金属カチオンに交換した鉄錯体内包カチオン交換ゼオライト触媒を調製し,活性部位近傍のカチオンがベンゼン酸化活性に与える影響について調査した.水溶媒中で種々のカチオン交換ゼオライト触媒を用いた過酸化水素を酸化剤とするベンゼンの酸化反応を行った. どの触媒を用いても主生成物としてフェノールが生成した. 交換したカチオンが1価の金属イオンの場合, Na+よりK+, Cs+の方が, 2価の場合, Mg2+よりCa2+の方が高い活性を示した.この触媒活性の序列は, 水和イオン半径の序列と概ね一致していることから, カチオンの水和イオン半径が小さくなると触媒中の反応場が広くなりベンゼン酸化が促進されることが示唆された.また,鉄錯体内包カチオン交換ゼオライト触媒のカチオン部分をテトラメチルアンモニウム,テトラブチルアンモニウムなどの有機カチオンに交換することで,ベンゼン酸化反応が向上することが明らかとなった. また、鉄‐ビピリジン錯体の代わりに,鉄‐フェナントロリン錯体や鉄‐ターピリジン錯体をゼオライトに内包した触媒を新たに調製し,過酸化水素を酸化剤として環状炭化水素類(シクロヘキサン,シクロヘキセン,ベンゼン)の酸化反応を行ったところ,いずれも対応するアルコール類が選択的に生成することが明らかとなった.上記の検討から,鉄‐ターピリジン錯体内包ゼオライト触媒がベンゼン酸化反応に対して最も高い触媒活性とフェノール選択性を示すことが明らかとなった.さらに,もっともπ-電子系の小さいビピリジン配位子を有する鉄錯体内包触媒を基準とすると,比較的広いπ-電子系を持つフェナントロリンやターピリジン配位子を有する触媒では,基質のπ-電子性が高くなるにつれて活性が向上することがわかった.
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