ベンゼンからフェノールを一段階で選択的に酸化することは非常に難しい反応であることが知られいる。本研究課題でこれまでにゼオライト中に電荷補償で存在するNa+イオンを有機カチオンに変換することでベンゼン酸化活性が向上することを見出した。一方で当研究で用いているY型ゼオライトは約1nmの空孔サイズしか有しておらず、錯体の大きさにかなり制限がかかってしまうことが問題としてあった。 そこで、層状化合物であるモンモリロナイトを担体とすることで、遷移金属錯体カチオンをイオン交換で容易に導入できることが明らかとなった。遷移金属錯体カチオンの配位子を変えても同様に容易に導入できるため、配位子の二重結合の範囲を大きくすることで、ベンゼンなどの基質の取り込み能力が向上し、ベンゼン酸化活性が向上することが明らかとなった。 また、上記の有機カチオン交換ゼオライトを用いた遷移金属錯体触媒を用いることでベンゼン酸化活性が向上したことから、活性中心である遷移金属錯体の周りに疎水場を形成させることが重要であると考えた。そこで、担体を無機担体であるゼオライトから高分子の陽イオン交換樹脂であるナフィオンを担体として用いることで、前述の層状化合物と同様、イオン交換により鉄錯体を導入することができることを見出した。過酸化水素を用いた酸化反応を行うと、ナフィオンを担体とした鉄錯体触媒が、ゼオライトや層状化合物を用いた鉄錯体触媒と比較して、最も高いベンゼン酸化特性を示すことがわかった。ナフィオンの代わりに一般的なイオン交換樹脂を用いても鉄錯体カチオンは容易にイオン交換することができるが、過酸化水素を用いた酸化反応を行うと、イオン交換樹脂自身が酸化され、溶液に溶けてしまうため、固体触媒としては使えないことが明らかとなり、イオン交換樹脂担体としても耐酸化性の高いナフィオン担体が非常に有用であることがわかった。
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