研究課題
本年度は、ハロゲン化アリールのUllmannカップリング反応によるビアリール合成について、金触媒の担体スクリーニング、および各担体でのサイズ依存性を検討した。本反応では、担体の酸塩基特性によって転化率・選択率が変化した。すなわち、担体酸化物が酸性になるほど転化率が上昇したが、選択率は塩基性の方が高い値を示した。その結果、収率と選択率の観点から、両性担体が最適担体であり、アルミナを担体に用いた場合に、目的のビフェニル化合物が最も高い収率で得られた。アルミナ担持金触媒について金粒子のサイズ依存性について調べると、直径約3 nmの金ナノ粒子が最も高い触媒活性を示すことが分かった。また、アルキンの酸化的ホモカップリングによるジアセチレン化合物の合成について、金触媒のスクリーニングを行った。本反応では、カチオン性金サイトがアルキンの吸着サイトになり、炭素―炭素結合形成は0価の金粒子表面で起こることが計算により示唆されている。まず、種々の担体に担持した金触媒を用いてスクリーニングを行った結果、酸化セリウム、酸化ニッケルなどの塩基性担体に担持した金触媒が、最も高い触媒活性を示した。これらの触媒は、X線吸収分光法による解析の結果、0価金粒子とともにAu(III)も混在することが分かった。Au(III)のみが存在する酸化セリウム担持金触媒では収率が低下したことから、Au(III)のみでは触媒活性が低く、塩基性担体では小さな金クラスターが生成していること考えられた。またこのことから、金クラスターがアルキンの酸化的カップリングに対して触媒活性が高いと推測される。
2: おおむね順調に進展している
Ullmannカップリング、アルキンの酸化的カップリングともに、スクリーニングにより最適な酸化物担体が明らかになり、反応条件もほぼ最適化された。Ullmannカップリングについては基質適用範囲の検討も終わり、担体効果について詳しい議論ができれば、ほぼ結果をまとめられる段階にある。アルキンの酸化的カップリングは、最適な酸化物担体は塩基性酸化物であることが明らかになった。X線吸収分光法による構造解析の結果、塩基性酸化物ではカチオン性の金が多く含まれていることが分かった。担体との界面に存在する金原子はカチオン性を帯びていると考えられることから、塩基性酸化物を担体とすると、直径2 nm以下の金クラスターを安定的に担持できると考えられる。今後、最適金粒子径と金の価数との関係について詳細に調べることで、より高活性な金触媒の設計につなげていく。
固体金ナノ粒子、および金クラスター触媒を用いて、今後担体酸化物の性質も利用したワンポット反応など、新規有機反応について検討する。均一系Au(III)触媒はソフトルイス酸触媒として用いられているが、再利用が不可能であり、高温では容易にAu(0)への還元が起こってしまう。Au(III)を安定に固定した固体触媒は、均一系金触媒よりも触媒量の低減、触媒の再利用が期待できる。そこで、固定化Au(III)触媒を用いたビニルエーテル交換反応について、今後検討を行う。また、サイズの小さな金クラスターでは担体との界面に存在する金の割合が高く、界面の金原子はカチオン性になっていると考えられることから、金クラスターについても、Au(III)が活性を示すとされる反応に適用できるかどうかを検討する。種々の担体に直径2 nm以下の金クラスターを担持するために、触媒調製法の開発についても研究を継続していく。
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