研究課題
本研究課題では、太陽光照射下で水を分解し、水素を製造できる光触媒系の開発を目指している。初年度は、可視光の幅広い波長領域で水を分解できる光触媒材料の開発と伴に、太陽光利用に適したベンチスケールの水分解反応器のプロトタイプ設計を開始した。一つ目の課題では、遷移金属酸窒化物を新規な方法で合成することにより、可視光照射下で水を水素と酸素に定常的に分解できることを見出した。この方法ではユニークな酸窒化物の複合体構造が得られ、従来にない特性を示している。本系は初期開発段階であり、現時点では詳細を公開できない。しかし、新規の水分解系を見出せたことは、今後の展開を大きく広げるものであり、残り2年間の研究期間でより現実的な性能が出せるように進めていく。また、後者の課題では、既存の触媒材料を用い、実際の使用条件下を想定したリアクター設計を行なった。ベンチスケールとして1平方メートルサイズのリアクターをフィールドテスト用に作製した。また、その前段階の実験として、屋内用の小型リアクターを作製し、幾つかのファクターの最適化を行った。まず、反応の形式として、固定式を検討した。これまで実験室での光触媒反応には減圧・撹拌式を用いていたが、実用段階では撹拌のエネルギー投入は無理である。ここで光触媒粒子をガラス基板に固定する方法を検討し、従来の撹拌式と同程度の活性を出すことができた。次に、反応容器の形式として、パネル型の薄型リアクターを選択した。この場合は、リアクターサイズが大きくなったときに、容器の下方にかかる水圧を低減することができるので、安価でソフトなプラスチック材料を利用できることが示された。これらの実使用を考慮したときに、光触媒活性の耐久性も必要となる。詳細は現時点では明示できないが、この点でも改善方法を見出している。
2: おおむね順調に進展している
初年度の過程で研究の進捗状況は良好であると思われる。当初は新規開発した光触媒の表面修飾法をベースに様々な半導体材料への適応を検討し、高活性な光触媒系を構築することであったが、研究の過程でこれまでには報告例がない複合構造を有する水分解に有効な光触媒系を新規に見出した。当初の計画とは少し開発手法が異なるが、新たな有効手段を見出したので、今後、予定以上の研究の進捗が期待できる。
今後の予定は前年度の研究で見出した酸窒化物複合体の担体、半導体部位について様々な組成とそれらの組み合わせを探索することにより最適化を行う。現在のところ各一種類のみの複合体で得られた結果であるが、様々な組成の化合物を探索することにより、活性と構造体の関係について系統的な知見を得る。それをもとに活性向上のための指針を明らかにしていく。また、これらの系にも当初考案していた新規表面修飾の効果を組み込んでいく。また、同時に大面積展開に適した製造方法と固定化方法等を検討する。
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