研究課題
今年度は太陽光利用のための水分解反応容器の開発に力を入れた。これまでに水分解反応容器に関する研究例はほとんどなく、どのような状態が最適であるかという知見はなく、試行錯誤で容器の試作と検証を行った。反応にはモデル光触媒としてAl-ドープチタン酸ストロンチウムを用いた。反応容器は軽量で簡易な構造であり、大面積展開が容易であることが必要条件となる。中でも反応溶液の量を極力減らすことで、リアクターの重量が減らせる。新規に開発した反応容器は光触媒を塗布した底板に窓板を張り合わせるだけで、その2枚の板の間に表面張力で水を浸み込ませるだけで、水の重量が小さく、非常に簡易な構造になる。これまでに水深を数ミリメートルまで薄くすることは検討されていたが、張力による薄い水の層のみで反応する場合でも、反応物供給および反応速度には影響が見られなかった。水深がミリメートル単位ある場合は傾斜して使用する際に水の重量が容器の下部にかかり、その負荷に耐えるために板の厚みを持たせて強固なものにする必要があった。この超薄型容器構造の場合は、面積を拡大しても水の重量が負荷にならないために、容器の素材も薄くてプラスチックのようなソフトな材質が使用できる。この概念で作製した反応容器は1平方メートルサイズに拡大し、実際の太陽光照射下で水素製造を行った。この時に実験室規模の場合と同様のエネルギー変換効率を出すことができた。このように、触媒性能を十分に引き出し、大面積展開に適した反応容器を考案し、実験的にもその有効性を実証した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究実施はおおむね順調に進行していると評価する。光触媒反応容器においてはひらめきによって大面積展開に最も適した簡易構造を考案し、短期間でその有用性を実証することができ、ほぼ最終目標まで達成することができた。この点においては大幅に予定超過で研究を進めることができた。一方、触媒材料開発においては、モデルサンプルとして既存のチタン酸ストロンチウム光触媒を用いたが、この材料は紫外光のみ応答するだけで太陽光スペクトルの一部しか利用できない。この部分の開発に関しては予定よりは早く進んでおらず、最終年度に重点的に取り組む。
これまでの研究で、実際の太陽光照射下でエネルギー変換効率0.5%を達成している。しかし、この材料が吸収できる波長範囲での量子収率はすでに60%程度と十分高い水準になっており、これ以上量子収率を向上させてもエネルギー変換効率は1%には到達しない。よりバンドギャップの小さいものを用いて利用できる光の波長領域を広げる必要がある。これまでに開発されている。500nm付近までに応答する材料を2種組み合わせ、主にZスキーム型水分解反応を検討する。単一の粉末を用いた一段階水分解より水分解反応へのドライビングフォースは増加するが、反応プロセスが複雑になるためその制御が困難になる。これに対して、反応サイトの分離や電子伝達系の構造を最適化し、高活性化を行う。
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