研究課題
本研究は、走査透過電子顕微鏡(STEM)による固体ヘテロポリ酸触媒の局所構造の評価手法を確立し、原子分解能観察に基づいた精密な活性点構築を行うことで、優れた触媒の開発に繋げることを目的とする。ヘテロポリ酸化合物は電子線に弱く、高分解能観察が難しい物質である。平成28年度は先ず、へテロポリ酸単分子の原子分解能観察を行うためのサンプル調製と観察条件(電子線の照射・検出条件、操作手順)の最適化について検討を行った。ケギン型ヘテロポリ酸分子を電子顕微鏡観察用のカーボン支持膜に付着させたサンプルでは、STEM像撮影中のヘテロポリ酸分子の移動などにより、ケギン型ヘテロポリ酸分子の形態が歪んで見える像が得られた。そこで、支持膜上でのヘテロポリ酸分子の動きを制限し、ケギン構造が有する本来の原子配列を可視化するために、カーボン支持膜上に規則的にケギン型ヘテロポリ酸分子を配列させることを試みた。ケギン型ヘテロポリ酸塩の生成条件を検討することにより、薄膜状のヘテロポリ酸塩結晶を作成し、これをカーボン薄膜上に固定せることに成功した。本試料について、STEM観察手順および観察条件を検討し、ケギン型ヘテロポリ酸単分子の原子分解能観察が可能であることを示すとともに、単分子観察のための最適条件を決定した。さらに、ケギン型ヘテロポリ酸分子の配列構造や欠陥構造を原子レベルで可視化することができた。本検討で得られた知見は、ヘテロポリ酸分子配列を制御した固体触媒の調製やその評価への応用が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
今年度計画である「へテロポリ化合物結晶や担持へテロポリ酸触媒の収差補正STEM観察の手法や条件を決定し、微細構造の評価を可能とする」ことは、カーボン膜上に固定した薄膜状ヘテロポリ酸塩結晶を作成し、その原子分解能観察に成功したことで達成したと評価した。また、薄膜状ヘテロポリ酸塩結晶の作成に成功したことは、次年度以降の計画である「担体上のヘテロポリ化合物の配列制御」に資する成果であることから、本研究課題は概ね順調に進展していると考えている。
本研究で合成に成功した薄膜状ヘテロポリ酸塩結晶は新規性の高い物質であると考えており、次年度、その生成条件について詳細に検討する予定である。
ほぼ計画通り使用したが、購入した物品が値引きされたため残額が生じた。
本年度の未使用額を次年度の物品費に追加する。次年度も当初計画のとおり使用する予定。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件)
Inorganic Chemistry
巻: 56 ページ: 2042~2049
10.1021/acs.inorgchem.6b02748
巻: 55 ページ: 11583~11592
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