本研究では、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いた固体ヘテロポリ酸触媒の局所構造の評価手法を確立し、原子分解能観察に基づいたヘテロポリ酸分子の精密な集積制御を行うことで、優れた触媒材料の開発につなげることを目的とした。前年度までに、ヘテロポリ酸塩結晶のSTEM観察条件を最適化するとともに、ケギン型ヘテロポリ酸塩のナノシートの合成と、その構造解析に成功した。そこで平成30年度は、ナノシートの合成手法をさらに発展させ、気液界面を利用したケギン型ヘテロポリ酸塩フィルムの合成を試みた。原料水溶液中のヘテロポリ酸とアルカリ金属塩の濃度や、結晶成長を開始させるための有機アミンの導入方法を検討することにより、薄片状のヘテロポリ酸塩結晶が連結したフィルムの合成に成功した。フィルムの厚さは合成条件により、70~160 nmの範囲で変化させることができた。STEMを用いた構造解析の結果、得られたフィルムは立方晶構造を有するケギン型ヘテロポリ酸のアルカリ金属塩の特定の結晶面((110)面)が選択的に露出した構造であることが明らかとなった。ヘテロポリ酸塩フィルムの生成過程を調べたところ、先ずケギン型ヘテロポリ酸の二分子が積層した二層構造を有するナノシートが気液界面上に生成し、それが核となり結晶成長することでフィルムが形成されることが明らかとなった。本研究で成功したケギン型ヘテロポリ酸フィルムの合成は、触媒膜や分離膜等の開発につながると期待できる。
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