研究課題/領域番号 |
16K06867
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
谷野 孝徳 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (50467669)
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研究分担者 |
大嶋 孝之 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30251119)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高電圧パルス電界 / 殺菌 / 金属フリー / 損傷菌 / 日本酒 |
研究実績の概要 |
金属フリーの高電圧パルス電界(HV-PEF)殺菌装置を実現するため、昨年度に開発した電極材料として炭素材料を用いたHV-PEF殺菌装置の更なる検討を実施した。カーボンメッシュを電極素材として使用し長期間の殺菌試験を実施すると、殺菌効果の減少と殺菌対象とした液体に若干の焦げたような臭いの発生が起こることが確認された。これら現象はカーボンボードを電極として使用した場合にも確認され、炭素電極表面のへの焦げ付きが確認されたことから、原因として殺菌対象となる微生物や処理対象液体中に含まれる右記成分が高電圧側表面に僅かに生じる電流によって焼き付いているのではないかと推測された。この問題を克服するため殺菌処理層内に隔膜で設置し、高電圧側とアース側を隔てることが可能な装置を開発した。高電圧側に蒸留水を、アース電極側に処理対象をいれ殺菌処理を実施したところ、殺菌効果が得られることが確認され、長時間の使用による殺菌効果の減少と処理対象への焦げ臭の発生の克服に成功した。また昨年度の成果として確認された、炭素電極では金属電極使用時に比べ発熱量が若干ではあるものの高いという問題点を、高電圧側に導入する蒸留水を冷却水として用いることで処理対象を冷却することが可能となり克服することができた。また装置材料としてシリコン材料を用いた装置の開発にも成功した。これらの成果より金属フリーで食品への臭い移りの心肺のない装置の開発に成功した。 処理対象として日本酒を用いた検討を実施した。日本酒製造に用いられる協会酵母に対する殺菌効果を確認し、殺菌処理後に低温で保存することで日本酒中の協会酵母のさらなる殺菌が生じることが確認された。この結果と昨年度に確認した低温で回復する損傷菌は存在しないという成果は、HV-PEF殺菌を実施した食品の保存期間における安全性の担保における非常に重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究実施計画に示した年次計画の目標をほぼ達成した。 小テーマとして計画した「食品風味に影響を及ぼさない金属フリーの殺菌処理装置の開発」については、当初計画していたセラミック製の処理装置の開発がセラミック3Dプリンターの発売が中止されたことから実施不可能となった。しかしながら、代替材料として食品生産現場で利用されているシリコン材料の利用を検討し、これを用いた装置設計に成功した。実施を計画していたHV-PEF殺菌処理後の官能試験については日本酒を対象として実施した。HV-PEF殺菌を行った日本酒にでは炭素電極表面の焦げ付きによる臭いの変化を確認し、この点を改善するための隔膜を導入した装置の開発を行った。また、昨年度の成果により明らかとなった炭素材料を電極とした際の発熱に対し、これを抑えるための殺菌装置への冷却構造の導入という申請時の実施計画にはなかった新たな課題を追加設定していたが、隔膜を利用し処理槽の片側を冷却水循環用途に利用することで処理液温度の調整を可能にして克服した。 もう一つの小テーマとして設定した「損傷菌の存在の調査と殺菌技術の開発」についても、昨年度すでにHV-PEF殺菌においては低温に保持することで回服を示す損傷菌は存在しないことを明らかとしていたが、日本酒を対象とした系においては低温で保存する事で殺菌率が向上することから、無損傷の菌と同等に生育するものの系中にアルコールなど殺菌効果がある物質が存在する場合に死滅する程度に損傷を受けている菌の存在を明らかとし、HV-PEF殺菌を実施した食品の安全性の担保を確立をするために重要となるこれまでにない知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の研究計画に従って研究を実施する。 これまでの成果である冷却機能を有する隔膜導入型金属フリーのHV-PEF殺菌装置を用いて日本酒をはじめとした液体食品に対し殺菌処理を実施する。この際、液体食品中に含まれる様々な成分、アルコール、タンパク質、核酸などに着目し殺菌処理前後における変化の有無について調査を実施する。また液状食品の品質の変化についても抗酸化力などを指標として調査を実施する。またこれらの成分・品質の変化については殺菌後に保存を行うことによる影響についても調査する。 また、申請時には計画していなかった項目であるが、隔膜導入型HV-PEF殺菌装置を用いた殺菌システムにおける高効率化を実現するために、諸パラメーターの検討を実施することを新たな計画として導入する。現在まで冷却水として蒸留水を用いているが、高電圧電極側を流れる流体の導電率が殺菌効果に及ぼす影響は依然不明である。また、隔膜導入型HV-PEF殺菌装置では膜により隔てられる事で高電圧は処理対象と接触しないため、従来の金属の電極の利用が可能になる。HV-PEF殺菌の高効率化を可能とする新たな知見の獲得を目標にこれらの条件が殺菌効果に及ぼす影響の調査を実施する。 またこれまでの研究成果を論文などの形で社会に発信していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)受領した研究費を効率良く無駄なく利用することを心がけセールなどを利用し安価に消耗品を入手できたたことで、当初の計画よりも支出額が少なく若干の残金が生じた。 (使用計画)次年度に受領する研究費と合算し、消耗品の購入や学会参加費用などに利用する計画である。
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