研究課題
本研究は、独自に開発したマイクロウェルチップ培養を利用して、iPS胚様体(球状細胞組織体)を取り巻く微小培養環境と細胞分化特性の関係を明らかにすることを目的としている。本年度は、酸素環境を変化させた際にみられるマウスiPS胚様体の分化特性と細胞内シグナルの変動を明らかにすることに取り組んだ。さらに、酸素供給環境に応答する細胞特性の変動がヒトiPS胚様体においてもみられる現象であるかを評価した。培養系内の酸素環境は、培養液内への酸素供給能と細胞の酸素消費によって決定される。そこで、培養系内へ高い酸素供給を達成できるポリジメリルシロキサン製チップにおいて、チップ上のウェル数(=胚様体数)を100個、300個、500個と変化させることで胚様体近傍の酸素環境が異なる条件を作製した。マウスiPS胚様体は、ウェル数の増加に伴って分化速度が低下し、ウェル数の少ないチップでは血管系分化、ウェル数の多いチップでは肝分化が促進された。これらの結果から、低酸素環境は細胞の分化がゆっくりと進行し、かつ肝分化が促進されやすい環境であることが示された。また、この現象に連動する細胞内シグナルの変化を評価した結果、細胞が自己分泌するWnt5aの発現が変動し、高酸素環境ではその下流シグナルであるAkt1の高発現に伴う血管系分化の促進、低酸素環境ではFoxa2の高発現に伴う肝分化の促進が起こっていることが示された。ヒトiPS胚様体では上記のような酸素環境に応答する分化スイッチング現象はみられなかったが、酸素供給能が高いチップ条件では神経分化が飛躍的に促進されたことから、酸素環境は細胞分化を制御する重要な因子であることが示された。本研究の取り組みによって、胚様体を取り巻く微小酸素環境と細胞分化特性の関係の一端が明らかとなった。
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