研究課題/領域番号 |
16K06884
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
松島 紀佐 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (40332514)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 数値流体力学 / 飛行機後流 / 後流積分 / 空力抵抗 / エンタルピー / 非接触圧力計測 / PIV実験 |
研究実績の概要 |
H.29年度において本研究では次の3つの課題,1)研究中のPIV 圧力推定コードの複雑問題への適用,2)CFDによる後流解析のための指針構築に向けての検証 3)後流面や遠方境界での物理量の測定により流体中を移動する物体にかかる抵抗値の算出方法(FF法,後流積分法などがある)の検証と抵抗分解結果の物理現象の対応検証 に取り組んだ. 1) については,複雑問題として実機に近い航空機翼胴形態の風洞実験用モデル.および,商用自動車の1/4モデルの後流面に対しPIV圧力推定を行った.航空機後流に対しては定量的にも精度の良い結果を得られた.自動車後流に対しては剥離等の速度変動が複雑であるためPIV計測データに誤差が残り,定性的には良好な圧力推定は出来たが,定量的には誤差が20%を超える領域もあり満足な結果は得られなかった. 2) 後流現象のCFD解析についてさらなる詳細検証を行った.主流方向の格子分布の粗密は抵抗値に大きく影響することが分かった.また,乱流モデルが後流現象に与える影響を調査した.主に物体にかかる空気力や抵抗値,後流現象を観察した.局所的な正確な現象解析を行うことは重要で,格子解像度を高くする必要がある.しかし,一方で現象捕獲を正確に行うことが必ずしも積分量である抵抗や揚力の値には影響しないことも分かった. 3) 翼や翼胴機体周りの流体シミュレーションの結果を対象に,自作のFF法および後流積分法による抵抗計算を各種試行した結果を比較・検討しCFDによる抵抗値予測精度向上のための解析を行った.簡便に応用できる後流積分法を用いて精度の良い抵抗計算が行えるようになり,形状抵抗と誘導抵抗への抵抗分解も可能になった.興味深い新しい知見も数々得ることが出来た.特にエンタルピー抵抗については新しい発見があり,後流積分抵抗計算を通じてCFD数値解の質的評価が出来る可能性を見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で示した,1)~3) の3つの課題について中間的ではあるかも知れないが,成果と結論を得ることが出来た.もちろん成果や結論の中には,PIV速度データの誤差処理のように当初予定していた攻略法では不十分な結果しか得られないことが判明し,完全解決には至らず,新しい課題を提起しなければならないものもある.本研究実施者は,このような新しい課題によって新しいCFD技術の展開が開けるものと期待し,前向きにとらえ「遅れている」とは判断しなかった.また,H.29年度中に3本の論文が査読付き学術雑誌にアクセプトされ現在ONLINEにて早期公開されている.H.29年度後半の成果をH.30年4月および7月の国内学会で発表することが決定している.
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今後の研究の推進方策 |
計画時の調書によれば,H.30年度の計画は,①実際問題へ適用し更なる改良を行う ②非定常性(時間平均と変動成分)の考慮 ③空力設計に利用できるようなインターフェースの整備 である.この3点を達成に向かって,「研究実績の概要」のところで示した,3つの課題其々においてこれまでの成果の展開や新しく提起された問題点の解決について研究推進方策を述べる. 1) についてPIV計測圧力推定を流体空間における非接触圧力計測法として成熟させるための最大の問題点は,PIV速度データの誤差の取り扱いである.誤差低減処理として次の手法を試験する.誤差の入ったPIV速度データを初期値に流体場の方程式を繰り返し定常状態での残差が0になるように解いていく方法である.誤差が除去された速度と所望の推定圧力が同時に求まる手法である. 2) については,翼平面形が後流現象へ与える影響について,その相関を解明する.シンプルな翼単体形状を対象に行う.横流れの影響などに注意し,これまでに蓄積してきた後流のCFD解析指針の評価と改善を行う. 3)後流積分法による空力係数算出ケーススタディを行う.エンタルピー抵抗の意味について考察を深め,理論的な一般化を行う.更に,抵抗値をその抵抗発生要因別に分別するための抵抗分解手法を(できれば,独自性を加味した)提案し,後流積分抵抗計算ソルバー完成を目指す.非定常的な流体現象への後流積分の適用についても検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題についての原著論文が査読を経て学術雑誌に掲載可となったが,まだ出版に至っておらず出版掲載費用としての支払いに当てる額として約15万円残している.また,H.29年12月に研究室の主力ワークステーションにトラブルが生じた.既に前倒し請求期限が過ぎていた.そこで,H.29年度の予算を残しておきH.30年度分の予算を足して,リプレースのワークステーションを購入することとした.以後極力出費を抑え,マシンリプレースの蚊カウの一部として約40万円を次年度に繰り越した.
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