前年度に検討したステアリン酸を混合したWAX燃料はLOXによる極低温下では燃料割れを克服出来なかった.そのため,WAX燃料と同じく低融点燃料で,より柔軟性に優れるLT燃料を新たな燃料に選定した.LT燃料に対する旋回流端面燃焼方式の燃焼特性を調査し,LT/GOXの燃焼状況はWAXの場合と同様であるが,その軸方向平均燃料後退速度はWAXの場合よりも2~3mm/s程度低い値であった.後退速度の低下はLT燃料の粘度がWAX燃料よりも大きいことに起因した.LT/LOXによる燃焼実験では,LOXインジェクターと燃焼室圧力との連成による燃焼振動を防止するため,液体ロケットエンジンを参考にインジェクターを設計した.燃焼振動は低減し割れや異常燃焼を生じることは無かったが,燃料後退速度はLT/GOXの値に比べかなり低い値であった. 研究期間全体を通じては,旋回流端面燃焼方式の燃料後退速度に影響するパラメータを明らかにし,エンジン性能予測に有用なWAXおよびLT燃料の両者に適用できる実験予測式を構築した.O/Fは燃料後退に伴い時間変化したため,O/F一定燃焼の実現には燃料端面の位置を保持するアクチュエータの導入が必要と考えられた.WAX/GOXでは目標とする5mm/sの燃料後退速度が達成できることを実証した.一方,WAX単体およびWAX混合燃料はLOXで割れを生じやすく不適合であった.LT燃料は,その後退速度がWAXよりも低い値であるが,LOX燃焼時にも割れを生じずに使用できることが分かった.LT燃料で燃料後退速度を向上するためには酸化剤の旋回強さを大きくするなどが必要である. 推力スロットリングを実施するためのLOX供給系の改良を検討したが,必要な機器は法規制とも相まって非常に高価であり,本研究の範囲では前述の研究課題に時間を要したこともあり実験までは着手できず供給系の設計までに留まった.
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