宇宙輸送機のエンジンノズルや,大気圏再突入時の耐熱材料としてカーボン繊維強化フェノール複合材料が用いられている.以下この材料をアブレータと呼ぶ.アブレータはフェノール樹脂の熱分解に熱エネルギーを消費させ,内側への熱の流入を小さくする働きを有する.アブレータは状況によって1000℃~3000℃,ときにはそれ以上の温度でかつ,活性雰囲気にさらされる.このためアブレータのような耐熱材料に対しては,基本的には酸化に関する研究がこれまでに多くなされている. またこれはアブレータ特有の事象であるが,急速加熱にさらされるため,その熱変形挙動が実は正確に追従できていない.ここで言う熱変形挙動とは線形な熱膨張等を示すのではなく,熱分解に伴うアブレータの収縮や,温度差が生む熱応力にともなうアブレータの損傷等の不可逆な変形である.すなわち,フェノール樹脂は熱分解時に気体を放出し,自身は収縮するという複雑な挙動をとり,これに起因するアブレータの損傷を含む変形は正確にシミュレートされていない.挙動を複雑にするもっとも大きな要因は,熱分解ガスによる内部圧力の増加に伴う面外変形を伴う層間はく離の発生である.準静的な加熱環境では熱分解ガスはアブレータ内部を浸透して外に出ることができるため内部圧力は無視できるが,急速加熱時には,そのガスが供試体外部へ出る速さよりもさらなる熱分解によって新たにガスが発生する速度が勝り,供試体の内部圧力の増加が起きる.この挙動を正確に予測できるようになれば,現在使われているアブレータの設計がさらに効率化されると期待できる.将来的には熱分解等を考慮した熱伝導―化学反応―変形の連成解析をおこなうことが望ましい.2018年度は様々な急速加熱試験を実施し,得られた数値解析結果の妥当性を示すことで,はく離発生が定量的に予測できる技術を確立できたことを確かめた.
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