研究課題/領域番号 |
16K06892
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
桃沢 愛 東京都市大学, 工学部, 准教授 (70575597)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アーク加熱風洞 / 再突入環境 / Themal Protection System / ジルコニウム / 動的酸化 / プラズマ |
研究実績の概要 |
超高温耐熱セラミックス(UHTC)の酸化挙動の解明のため,O2を含むガスを作動流体としたアーク加熱風洞の改良を行った.高温の酸素が接触する金属製電極は酸化による損耗が著しく,溶けた電極材が供試体を汚染するため,各電極に耐酸化性被膜を施すことで損耗を減らす試みを行っている. 陽極については,新たなコーティング手法として,固相のまま母材に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー方式について試した.被膜はコンストリクタ部(アノードの中心孔)の側面にも達することを期待し,表と裏の両面にスプレーを行った. 陰極についてはマイクロ波放電管により作製したZrNコーティングカソードの他に,新たにイオンプレーティング法によりTiN及びTiCNコーティング陰極の作成を行い,両陰極の損耗を比較した.イオンプレーティング法はコーティング回数を変えることでコーティング厚さを変化させた. 上記の電極を用いたアーク加熱風洞を作動させ,電極の損耗について各電極の質量変化の測定および加熱試験後の損耗電極を切断し,SEMとEDXを用いて分析を行うことで評価した. その結果,コールドスプレー法を用いたCu-Crコーティングアノードには損耗を抑制する効果が見られなかった.これは,プラズマが付着するコンストリクタ部側面に被膜が形成されなかったのが原因であると考えられる.陰極の損耗については,TiNの多層コーティングが電極の損耗抑制に効果的であることが分かった.また,特に装置の点火時の損耗が大きいことが明らかとなったことから,点火時の損耗を抑制する手法について検討が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,アーク加熱風洞の電極部分(陽極のみ)を改良とSiCの動的酸化実験の2つの実験を並行して行う予定であった.しかし,SiCの酸化実験の結果から電極損耗軽減のための研究に重点を置くこととなった. 陽極については,減圧プラズマによるコーティングは損耗抑制に非常に効果的であることが示されたが,コストが非常に高い事が問題であった.代替としてコールドスプレー法を試したが,コンストリクタ部側面に被膜が形成されなかったため,作製方法として適さないことが分かった.現在はサンドブラスト法による被膜の効果を検証中である. 陰極については,ZrN被膜の厚みが約10μmと限られることから,膜厚を変えられるイオンプレーティング法を用いて,膜厚と損耗量の関係の評価を行った.陰極は点火時の損耗量が大きいことが明らかになった.初期損耗において,TiN被膜厚が20μm程度の場合,他の膜厚のTiN及びZrN被膜陰極の損耗量の50 %未満となった.初期損耗後の電極表面の一部はZrNの被膜が失われており,母相である純Zrが露出していた.現在は点火時の損耗を抑制する方法を検討中である. SiC等のTPS(Thermal Protection System)材料の酸化実験に関しては,加熱試験中の放射温度計による表面温度測定を可能にするために,SiC及びZrB2-SiCの放射率の測定を行った.また,SiCに対し,アーク加熱風洞を用いて酸素雰囲気下での加熱試験を行い,現在の段階で壁面直前温度が4500 Kのプラズマ気流中でSiCの表面温度をおよそ1600 Kまで加熱が可能となっている.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は電極の改良を重点的に行った.今年度も引き続きクリーンなプラズマ流実現のために陽極・陰極の改良を継続していく.陽極はサンドブラスト法によるコーティングの検証を行う.サンドブラスト法によるコーティングの有用性が示された場合には,Cu:Crコーティング比とコーティング厚さについての検討を行う.陰極に関しては点火時の損耗のメカニズムについての解明を行い,その上で改善を行う.また,この研究で得られた知見は共同研究として大阪工業大学・田原研究室のアークジェットの電極改良へも生かすと同時に,本研究にフィードバックする. TPS材料の酸化実験について,SiCについてはアーク加熱Active-Passive酸化遷移境界の検証をおこなうことを目標とする.また,ZrB2-SiC系についての動的酸化試験を行い,動的酸化におけるZrB2の複合化による耐酸化性改善の役割について,静的酸化試験の結果と比較しつつ明らかにする. 国外研究者とのディスカッションは8月末にドイツ・シュツットガルト大学のDr. Herdrichおよびアーヘン工科大学のProf.Telleを訪問して行う予定である.研究成果の発表については,昨年同様宇宙科学連合講演会・宇宙輸送シンポジウムの他,9月11~15日の予定で行われるThe 11th International Symposium on Applied Plasma Science において発表予定である. また,今年度中のアーク加熱風洞施設の東京大学から東京都市大学への移設を計画している.移設後は引き続き電極の改良を行うほか,アーク加熱風洞の大出力化により,半導体レーザーの照射によるアシストなしに再突入環境温度まで試験片の加熱が可能であるか検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究の中心を電極の改良にあてたことにより、当初購入予定であった二色放射温度計は、次年度以降再検討となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度はアーク加熱風洞の東京大学から東京都市大学への移設を計画している。そのために、施設工事費、装置輸送、設置費が必要となる。また、新規で真空ポンプやチラー等の購入が見込まれるため、その購入費に充てる予定である。
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