研究課題/領域番号 |
16K06896
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研究機関 | 西日本工業大学 |
研究代表者 |
鷹尾 良行 西日本工業大学, 工学部, 教授 (60206711)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 推進・エンジン / 航空宇宙工学 / 宇宙電気推進 / イオンエンジン / マイクロ波放電 |
研究実績の概要 |
マイクロ波放電型イオンエンジンは、放電室内の背景磁場内で生成維持されるプラズマからイオンを静電グリッドで引き出し放出することにより推力を発生する。従って、本タイプのイオンエンジンの性能は、放電室内部のプラズマ形状に大きく影響される。このプラズマ形状は放電室内外に配置した永久磁石による背景磁場の形状で決定される。また、本エンジンは、プラズマ生成にホットカソードなどの消耗する電極を使用しておらず、プラズマ生成のためにはマイクロ波放出用アンテナを使用しており、長寿命である利点を有している。プラズマ生成には、マイクロ波と背景磁場によるECR(電子サイクロトロン共鳴)を利用しており、ECR領域の磁界中にマイクロ波で強電場を生成し、電子を加速し推進剤をイオン化することによりプラズマを点火する。これまで、このイオンエンジンのプラズマ点火性能と引出しイオン性能の向上のために背景磁場を動的に変化させる研究を進めてきた。研究上の問題となったのが、1次元可動磁石では理想的プラズマ形状の展開を完全には実現出来ないことであった。そこで、背景磁場を2次元可動型磁石で変化させ、最適なプラズマ形状を形成し、点火性能を維持しながらイオン引出し性能を改善した高性能のイオンエンジンを開発することを目標として研究を進めている。 本年度は、これまでの研究において設計した5cm級の一次元可動磁石型マイクロ波放電型イオンエンジンをベースとして2次元可変磁場型のイオンエンジンの設計を行った。イオンエンジンの放電室外周部の背景磁場生成用磁石に加えて、円筒型放電室の軸方向と半径方向に可動する磁石を放電質内部に配置したイオンエンジンの構造を決定し、磁石移動機構の試作を行った。また、効率向上を考慮して円錐型放電室の外壁を移動する可変磁石を有するイオンエンジンを設計して内部磁場形状の数値計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、2次元可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンの設計を行った。イオンエンジンの放電室外周部の背景磁場生成用磁石に加えて、円筒型放電室の軸方向と半径方向に可動する磁石を放電質内部に配置したイオンエンジンの構造を決定し、磁石移動機構の試作を行った。これを組込み、2次元可変磁場型イオンエンジンを作製しプラズマ生成実験を行う予定であった。2次元可動磁石の移動機構の移動精度が出ておらず、再設計と試作の繰り返しに時間を要し、実験装置の完成が遅れている。早急に完成し、実験結果を蓄積したい。 現在設計、製作中のイオンエンジンの放電室は円筒形であるが、推進剤の放電室内での密度を考慮した場合、容積が小さくなる円錐型の放電室が有利である。一方、磁場変化については、軸方向と半径方向の磁石移動が独立で無くなる欠点がある。しかしながら磁石移動が、斜面方向の一軸で良いから構造が簡単になる利点を有している。そこで、このタイプの2次元磁場可変型イオンエンジンの設計も試みている。基礎データとして磁石移動による背景磁場の変化を数値計算で求めた。円筒型放電室のイオンエンジンの製作、実験を重点的に進めながら、円錐型放電室についても設計データを蓄積する予定である。 なお、2次元可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンの内部磁場配位の変化について、一部学会で報告した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を基に、2次元可動磁石を用いて背景磁場を変化させることが出来るマイクロ波放電型イオンエンジンの研究を、以下の方策にて推進する。研究遂行は、主に研究代表者および学部学生3名にて実施する。 (1)2次元可動磁石を有するイオンエンジンの製作: ①イオンエンジンの2次元磁石移動機構を3DCADを用いて改良設計し、試作する。製作はNCフライス等を用いて、本校の技術センターおよび専門の教員の協力を得て実施する。試作が確定した時点で、実験装置として完成させる。その際、本学で精度が出ない場合は、外部に部品の製作を依頼する。②2次元可動磁石の駆動回路を設置する。 (2)イオンエンジンの性能試験: 作製した2次元可動磁石を有するマイクロ波放電型イオンエンジンを真空容器内に設置し、性能試験を実施する。データはパーソナルコンピュータに取り込み評価を行う。 (3)マイクロ波放電型イオンエンジンの動作実験結果を評価し、性能を更に向上するための検討を行い、必要な改良を行う。 (4)成果をまとめ国内外の学会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置製作の試作の遅れによるものである。磁石移動機構の試作を行い、駆動試験を実施した。その結果、2次元可動磁石の移動機構の移動精度が出ておらず、再設計と試作の繰り返しに時間を要しており、実験装置の完成が遅れている。装置の試作は、校費、学内設備および既存部品の再利用により行っている。試作が完了次第、内作および外部委託により実験装置を完成する。そのため、研究費の使用が遅れている。早急に試作を完了し、実験結果を蓄積したい。
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次年度使用額の使用計画 |
イオンエンジン作製は、西日本工業大学の技術センターおよび外部委託による部品製作で行う。作製にはMo, Al, Feなどの種々の金属材料を使用し、加工のための工具が必要となる他、外部委託による製作費が生じる。また、2次元磁場変化用のアクチュエータに精度と真空中での利用に対する耐久性が要求される。現有アクチュエータを新型のものに取り換えていく予定である。これらイオンエンジンの作製、改良は本研究の基本であり物品費の大部分を使用する。実験消耗品を含めての不足分は校費を使用する。その他、イオンエンジン出力測定、可動磁石、制御のための電子回路改良に10万円を使用する。 旅費として、平成29年度の調査・研究旅費として(5万円x3)を計上し、研究遂行のために他研究機関での類似研究の調査、研究情報の交換を行う。成果発表旅費として松山(5万円)、ワルシャワ(ポーランド18万円)を予定している。
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