マイクロ波放電型イオンエンジンは、円筒形の放電室とその内部に背景磁界を生成するための永久磁石(放電室外周に設置)、放電室開放部(下流)に設置した2枚の静電グリッドおよびマイクロ波を放電室内へ放出するアンテナで構成されている。放電室内部に、背景磁場とマイクロ波の交流電界による電子サイクロトロン共鳴(ECR)で電子を加速しプラズマを生成する。このプラズマ内の正イオンを静電グリッドで引出し放出することで推力を発生する。このためにイオンエンジンの性能は、放電室内部の背景磁場配位で決定されるプラズマ形状に影響される。 本研究室では、固定磁石に囲まれた放電室の内部に可動磁石を設けることで背景磁場を変化させ、イオンエンジンのプラズマ点火性能と引出しイオン性能を向上させる研究を進めてきた。先の研究では、軸方向に移動可能な可動磁石を有するマイクロ波放電型イオンエンジンを開発し、プラズマの点火性能を向上することが出来た。しかしながら、引出しイオン電流の増加は明確に観察できなかった。そこで、背景磁場を2次元可動型磁石で変化させ、最適なプラズマ形状を形成し、イオン引出し性能を改善したイオンエンジンを開発することを目標に研究を進めている。 本年度は、前年度にイオン引き出しに成功した5cm級の軸方向と半径方向に移動可能な可動磁石を有する可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンから、一連の性能データを収集した。そのデータより可動磁石の保護カバー(真鍮製)がプラズマ壁面損失の原因となっていることがわかり、カバー廃止と同時にイオンエンジン放電室の冷却性能向上のための改良を実施した。改良した可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンの性能測定実験を行い、放電室内部の磁場変化によるプラズマの形状変化観察および引出しイオンビーム測定を実施したので、研究成果報告としてまとめる。
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