研究課題/領域番号 |
16K06903
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 博善 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (00252601)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ANC法(ANCF) / テザーケーブル / 巻き癖 / 異方性 / 非線形性 |
研究実績の概要 |
今年度は、テザーケーブル単独での材料特性の計測および水中運動試験・挙動解析手法、ROVに接続されたテザーケーブルの数値解析手法および、CFDによるROVの機体に働く流体力の推定精度の検討の3つの観点から研究を行った。 テザーケーブル単独の場合、3種の実機テザーケーブルを入手し、材料試験を行った。この結果、テザーケーブルには、異方性に由来するケーブル長手方向の巻き癖、撓みと曲げ剛性が同時に変化する非線形性が存在することがわかった。こののち、曳航水槽で、テザーケーブル単独での水中運動試験を行い、水中挙動の観測を行った。この結果、やはり異方性、非線型性が確認された。この結果をもとに、同様条件でANC法を用いた数値計算を実施したが、ヤング率を定数として考えているため、計算値と実験値の一致度はそれほど良くなかった。ところが、適宜ヤング率を変更して計算すれば、部分部分のケーブル挙動を一致させることができた。このことから、ANC法に非線形性を考慮すれば、この問題は解決するであろうと考えられた。 次に、ROVに接続されたテザーケーブルの数値解析手法では、1)ケーブル長さ方向の巻き癖を考慮する方法、材料特性の計測および水中運動試験から得られたテザーケーブルの性質のうち、2)異方性を考慮する方法を考案し、これらをプログラムに実装した。さらに、以前から問題であったROVの吊り点位置でのテザーケーブルの条件(境界条件)に改良を加え、実現象を反映できるようにした。 さらに、ROVの機体に働く流体力の解析手法に関し、計測値との比較から、計算メッシュ、乱流モデルの観点から検討を行った。 これらの観点のうち、ROVが巻き癖を有するテザーケーブルに接続されている場合のROVの挙動に関する研究成果は、本年度6月末に開催される「海洋と極地工学に関する国際会議(ISOPE)」にて発表の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、テザーケーブルの材料試験とケーブル単独での水中運動試験により、ケーブルの異方性、非線型性、ケーブル長手方向の巻き癖と異方性の関係に関する基礎的な知見を得た。 これを基に、ANC法によるテザーケーブルの数値解析プログラムおよびこれとROVとの連成解析プログラムに関し、ケーブルの長手方向の巻き癖の考慮や、異方性の考慮、境界条件の適切化が達成できた。現在も、改良したプログラムを拡張する形で、ケーブルが伸縮する場合の数値計算法の考案・プログラムへの実装、ケーブルがROVと接触する場合の接触判定および排他プログラムの開発を実施している。一方、テザーケーブルの捻り方向を含む運動解析法への拡張および、これを含むROVの運動推定法の開発には着手できなかった。 CFDによるROV機体に作用する流体力の推定法の確立・精度検証については、機体が異なるものの、他大学で得られたオープンフレーム型水中探査機に関しての流体力の計測値(機体の静止時、強制動揺時を含む)とCFDで得られる流体力(機体の静止時、ヒーブの強制動揺時を含む)の比較・検討を実施することができた。精度の向上には、今一歩の努力が必要であるが、今年度の研究結果には、次年度実施予定だったものも内容も含まれている。 以上のように、計画から遅れている部分や、先んじている部分もあるため、平均的には、おおむね順調に研究が進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、ANC法によるテザーケーブルの運動解析法について、現有のプログラムに対しヤング率の非線形性を考慮するための構成式(材料の構成式)の導入、および捻り影響を考慮できるように先行論文の定式化の確認、およびプログラムへの落とし込みを行う。前者では、平成28年度に取得したテザーケーブルの水中運動試験の計測結果を用いて、評価を行い、妥当性を検証する予定である。後者は、捻り剛性を計測し、捻り試験を行い、これとANC法のよる数値計算プログラムの結果を比較することで、妥当性を検証したい。 一方、CFDによるROV機体に作用する流体力の推定法の確立・精度検証については、これまでより緻密なメッシュを用いることで、乱流モデルとして所謂LESを含め(これまでは基本的に所謂RASを用いていた)検討を行いたい。もちろん、ヒーブ以外の強制動揺状態の検討も行う予定である。これを基に、機体運動推定法の高度化を行う。この結果が得られれば、逆に機体形状モデルの数値データの簡略化等に取り組み、どの程度までのディテールの省略がどの程度まで計算結果に影響するのかを調査し、CFD計算のためのガイドラインを作成したい。 その後、テザーケーブルの運動推定法およびROVの機体運動推定法を組み合わせ、運動推定法を構築する。これを基に、ROV操作訓練用シミュレータの構築、これのROVメーカーへの供給を図っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実際にROVに用いられるテザーケーブルを購入する予定で、テザーケーブルを販売している会社等に問い合わせてみたが、基本的に少量販売をしていただけないとのことであった。そこで、数社のROVメーカーに相談してみたところ、端材を無料で提供していただけることになり、その分の支出をする必要が無くなった。一方、人件費も使用できなかったし、講義等の都合で海外での調査旅行に行くことができなかったので、結果として次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、資料整理・データ整理等が十分に行えていないので、今年度分の人件費を次年度分と合わせて使用し、十分整理していきたい。また、次年度は、海外にて一部成果を発表する予定であるので、海外旅費を使用予定である。また、今年度は、消耗品等を十分購入できていないので、それらを購入したい。
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