研究課題/領域番号 |
16K06906
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
佐野 将昭 広島大学, 工学研究科, 助教 (40582763)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 船舶工学 / 船体抵抗 / 船体運動 / 載荷状態 / トリム / 規則波 / 水槽試験 / CFD計算 |
研究実績の概要 |
2年目に当たる本年度は,昨年度製作した現行の代表的(一般的)な航洋型プッシャー・バージ(P/B)を対象に,以下の研究項目に取り組んだ。 (a)プッシャーとバージの連結部の段差が粘性圧力抵抗の増加要因である事を踏まえ,バージに意図的に初期トリムを付与する事で,抵抗源である連結部(不連続部)の流場を円滑化し,P/Bの全抵抗低減を図る可能性を検討した。水槽試験とCFD計算の結果,本P/B船型では,バージの僅かな船尾トリムが粘性圧力抵抗の低減に効果的であり,結果的に,満載と空荷の両載荷状態において,P/Bの全抵抗低減が図れる事を明らかとした。また体積力モデルを使用したCFD計算により,バージの船尾トリムに伴う伴流の増加が決め手となり,自航要素が向上する可能性を示した。 (b)同様に,バージ船尾形状の改良という観点から,粘性圧力抵抗低減の可能性を検討した.船尾船底スロープの曲率や始点,ノッチ深さや連結関隙など,種々の設計パラメータを変更した形状ファイルを作成し,CFD計算により,現行P/Bに対して全抵抗低減を可能とするバージ船尾形状を検討した.最終的にバージ船尾にかけて緩やかな円弧を描く船底とし,そのセンターライン上にスリットを配した形状を考案した。そして同部位の1/38模型を新規に製作した。 (c)プッシャーの相対動揺を許容した状態(2点支持連結方式)で,満載と空荷の2つの載荷状態について規則波中試験(正面向波)を実施した.波長船長比に応じたプッシャー,バージ個々の船体動揺を評価し,特にプッシャーの縦揺れ特性では,プッシャー固有の同調周期による振幅ピーク(短波長域)とバージの強制動揺によるピーク(長波長域)が共存する事を示した。併せてストリップ法をベースに,連結部の力学的連続条件を考慮したP/Bの船体運動計算法を構築し,P/Bの縦運動について定性的な傾向を捉える事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,初年度の研究から派生した「初期トリムによる抵抗低減の可能性」を抵抗試験により検証すると共に(研究実績a),最終年度に予定されていた波浪中試験の一部についても前倒して実施した(研究実績c)。本来の2年目の研究計画である「抵抗低減案の検討(バージ船尾形状の改良)」は,研究実績(b)で記載した通り,概ね達成できていると考える。改めて,本項目の進捗状況について詳述する。 バージ船尾形状の改良に際して,種々の設計パラメータを試行錯誤により検討を重ね,満載と空荷の両バージ載荷状態において,P/Bの全抵抗低減を見込めるバージ船尾形状の検討を行った。P/Bは2浮体が縦列に並び,バージが作る伴流域をプッシャーが走る航走状態となる。この為,抵抗低減のアイディアとして,スリップストリームの考え方を念頭に,バージ船尾形状の検討を実施した。具体的には,バージの形状ファイル作成→CFD計算→P/Bの全抵抗性能評価のプロセスを繰り返す事で,バージ船尾形状の作り込みを行った。そして最終的に1形状案に絞り込み,同部位の模型(Ord.3-1/2より後半部)を新規に製作した。なお当初の2年目の計画では,「曳航水槽で抵抗試験」まで予定されていたが,形状検討に時間を要した事が理由で,3月末時点では未実施である。抵抗試験自体は日数を左程要しない事から,最終年度早々にも実施し,引き続き改良バージを持つP/Bの抵抗性能を評価していく。 一方で,最終年度の研究計画に挙げていた「規則波中耐航性能の評価」項目の内,現行P/Bによる規則波中試験は,上述の通り前倒して実施済みである.この為,全体的な研究計画に大きな遅れは出ていないと考えており、現在までの進捗状況として「おおむね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
新規に製作したバージ船尾を連結した改良P/Bを用いて,現行P/Bとの性能対比を念頭に各種性能評価(抵抗/自航,耐航性,操縦性)を実施する。 (a)満載と空荷を含む複数のバージ載荷状態で,改良P/Bの抵抗試験を実施する。そしてCFD計算で見込んだ抵抗低減効果について検証する。また初期トリムを付けた抵抗試験も実施し,現行P/Bにおいて抵抗低減に寄与した初期トリムの有意性についても検討を行う。 (b)改良P/Bの自航性能についてCFD計算ベースで検討を実施する.改良バージは没水形状が現行型とは異なる事から,伴流模様が異なり,プッシャーが置かれる流場,強いてはプロペラ周りの流場が異なる事が予想される.模型排水量の都合,モーターを搭載しての自航試験が難しい為,CFD計算により自航要素を評価する事で,抵抗性能に引き続き,現行型に対する改良P/Bの推進性能(平水中)を評価する. (c)改良P/Bの規則波中耐航性能(船体運動)を評価する.今年度実施した現行P/Bの耐航性能と対比する形で検討を進める.平水中抵抗性能向上を狙って製作した改良P/Bにおいて,波浪動揺,波浪中抵抗増加といった波浪中性能がどのように変化するかを明らかにする。また本年度同様にストリップ法をベースとした理論計算法を適用し,改良P/Bの船体運動に対する推定精度を検証すると共に,種々の波浪条件で連結部に作用する動的荷重・ピーク荷重を評価する事で,2点支持連結方式の強度評価に役立てる。 (d)現行型と改良型のP/Bについて,それぞれ裸殻で斜航・CMT 試験を実施する。船体に作用する操縦流体力を計測し,満載と空荷の載荷状態ごとに一連の操縦流体力微係数を同定して整理する。そして操縦運動数学モデルを構築し,操縦運動シミュレーション計算を通じて,各航走状態における操縦性能を評価する。
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