研究課題/領域番号 |
16K06912
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
新井 励 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60508381)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超音波流速計 / 濁度計測 / 主成分分析 / 海域モニタリング |
研究実績の概要 |
本研究は、超音波流速計(ADCP)による熱水鉱床開発時に発生する懸濁物質濃度および種類の非接触三次元計測である。日本周辺海域には海洋資源となりうる海底熱水鉱床の存在する。また、熱水鉱床の開発を実施するに際し、周辺生態系に対し環境影響評価をすることが不可欠である。そのため、採鉱時に重金属等を含む懸濁物質がどの程度発生・拡散・堆積し、周辺生態系に影響を及ぼすか、懸濁物質を計測することで把握する必要がある。 トランスデューサー(音波の送受信装置)から発した音波は,水中の懸濁物質や水により減衰・拡散しながら水中を伝播し,懸濁物質に反射され、再度トランスデューサーで受信する。申請者は、日本近海の熱水鉱床近傍においてADCPを長期間設置観測することで熱水鉱床近傍における懸濁物質濃度の鉛直分布計測に成功した (Arai et al. 2011) 。また、2013年より、従来用いられてきた簡易の水中音波伝搬モデルを、FDTD法を用いた数値計算にし、計測データと数値計算の統合化を図ることで、ADCPによる濁度計測の大幅な精度向上を達成した(可視化情報学会2015)。本研究過程を通して次の新たな三つの可能性を示唆することができた。 ①重金属を含む高密度な懸濁物質やプランクトンのような明らかに密度・構造の異なる懸濁物質の音響散乱特性は各々異なる。②濁度を構成している懸濁物質の粒子径の分布が異なれば音響散乱特性も異なる。③FDTD法による数値計算は計算時間を要するため、実海域における計測には適していない。そこでこれらの問題点を解決すべく、ADCPには4つのトランスデューサーを有している点に着目し、多変量解析を用いることで①を解決する。さらに既設の水槽実験および実海域における実験を通して②と③を解決する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超音波流速計(ADCP)による熱水鉱床の探査および開発時に発生する懸濁物質「濃度」および「種類」の非接触計測である。この目的を達成する上で研究期間は平成28年度から平成30年度の3ヵ年とする。【平成28年度】懸濁物質の粒径分布がADCPの散乱強度に及ぼす影響を実験より求め粒径分布を考慮した散乱モデル式を構築した。【平成29年度】ADCPに備わった4つのトランスデューサーの信号を主成分分析や独立成分分析をすることで懸濁物質の種類ごとの濃度分布の計測を実現している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は本申請課題の実用化に向けた取り組みを行う。まず、従来のFDTD法による音響伝搬モデルは、濁度影響を除いた水中における音波の拡散と海水による吸収のみを計算するといった、理論式を差分化して数値計算するものであり、高精度ではあるものの計算時間を考慮するとリアルタイムモニタリングには不向きであった。そこでADCPから放射される音波の指向性(ビーム幅2°の拡散)をFDTD法により計算し、各水温、塩分濃度においてどの程度減衰するかを事前にFDTDにより計算する。その結果をもとに減衰する割合を従属変数として水温と塩分を用いて近似関数で表現することで簡易モデルを構築する。さらに実海域であるりんくう公園内海においてADCPにより水中の散乱強度を計測し、計測値に簡易モデルをリアルタイムに計算することで実海域の各種浮遊懸濁物質の濃度を定量するとともにその有効性を検証する実験を実施する。最後に、申請者は浅海海底熱水噴出域において、ADCPの反射強度および濁度データを取得しているため、これらの計測データと本申請課題で開発したあらたな多変量解析・音響送受信伝播モデルを統合することで当該海域の懸濁物質濃度および種類の空間分布を算出する。これらの研究成果についてはそれまでの成果も含めて春季の国際会議で発表するとともに、秋季の国内講演会で発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度参加予定の国際会議が国内(神戸)で実施されるため、旅費が当初の予定より減額した。この費用を秋の国内講演会に参加する充てる予定です。
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