研究課題/領域番号 |
16K06921
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
山口 良隆 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (20344236)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海洋環境 / 船底防汚塗料 / 銅 / 化学形態 / 海水 / 元素分析 / 固相抽出法 |
研究実績の概要 |
今年度は、海水中に溶解した全銅(TDCu)濃度を分析する手法の精度向上を目指し、実験手法の改良を行った。今までTDCu濃度計測の前処理は、海水試料に酸を添加した後に、加熱分解を行っていた。しかし、この手法だと酸分解処理後に銅と残留した有機配位子が再結合する場合があり、実際のTDCu濃度が少なく見積もられる可能性があった。これを防ぐためには、配位子等の海水中に溶解した有機物(DOC)を完全に分解することが必要である。そこで、海水試料に過酸化水素を添加した後、紫外光を照射して、海水中の有機物を完全分解することが、可能な手法に変更した。さらに、この光分解を利用した手法の検証に、銅-エチレンジアミン四酢酸(Cu-EDTA)錯体を有機銅化合物のモデル物質として使用した。結果として、最適な光照射条件において、照射後のDOC濃度が初濃度の20%以下となり、さらに実験で設定した銅量をほぼ回収することができた。この結果の解釈としては、この条件でEDTA中の銅と結合する基が、ほぼ分解したためと考えられる。このように、本手法は、海水中のTDCu濃度の分析を行うために、有用であると考える。 次にCuとEDTAの混合比を変えて、海水中のlabile銅とCu-EDTA錯体の比を制御した海水試料の調整を行った。それぞれの海水試料を固相抽出法で前処理を行い、銅形態別分析を行った。海水試料の銅形態別分析結果は、Cu-EDTA錯体の安定度定数から求めた計算値と、おおむね一致をした。そのため、本手法は、海水中のlabile銅を検出するために、有用であると考える。 さらに上記の2つの実験を通して、海水中の有機配位子等を含むDOC濃度やpHで、固相に回収される銅量が変化することが分かった。これらの結果よりDOC濃度やpHが、海水中に存在する銅形態を変化させる要因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海水中のTDCu濃度分析法の精度向上と固相抽出法を用いたlabile銅分析値と計算値の比較を行った。それぞれの実験で、有機銅化合物のモデル物質としてCu-EDTAを用いて、分析値と設定値の比較で検証を行った。2つの分析手法の実証実験の結果として、実験で設定した銅濃度と定量分析で検出された銅濃度の量的な関係が、概ね一致した。また、これらのモデル物質の実験から得られた結果の一つとして、有機配位子と銅の結合が、海水中の銅存在形態を決めるための因子のひとつであることが分かった。本研究の中心である海水中における銅形態予測の基礎となる関係が得られたために、おおむね順調に進展していると判断するものである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度に、閉鎖的な海域、河川近辺、比較的開けた海域等の実際に船舶が輻輳する海域の様々な海洋環境中における海水中の銅存在形態を分析し、さらに形態予測に必要な周辺情報の収集を行う。H29年度に検証をした海水中のTDCu濃度とlabile銅の分析手法を活用し、海水中の銅存在形態の測定し、さらに存在形態を決める可能性のある基本因子として海水性状(pH、塩分濃度、DOC、温度等)の計測も同時に行う。また、海水中の有機配位子を含むDOC濃度と銅存在形態の関係についても相関解析等を行う。得られた結果を組み合わせて、マルチな海洋環境に対応可能な銅存在形態予測モデルの構築を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度に、低濃度の元素分析が可能な誘導結合プラズマ質量分析(ICP/MS)装置に深刻な故障が発生し、完全に使用不能となった。その代替措置として、ICP/MS装置より検出感度が若干大きな原子吸光(AA)装置で、銅の定量分析を行った。そのため予算実行時に、ICP/MS装置で分析時に使用するアルゴンガスの必要が無くなり、AA装置で分析時に必要なアセチレンガスに変更となった。また、海水中のlabile銅を前処理及び分析法として、薄膜拡散勾配(DGT)法の使用を予定していた。しかしDGT法を使用した場合、海水から採取されるlabile銅の濃度がかなり低く、ICP/MS法のような高感度な元素分析装置を使用しないと、銅の定量分析が難しい。そこで、TDCuやlabile銅の採取に関してAA装置で分析を行えるように、分析のための前処理として海水の脱塩と同時に銅の濃縮が可能なキレート樹脂の固相抽出に変更を行い、一連の実験を行った。このように実験手法が変更となったため、使用金額について変更があった。また、東京で行われた国際学会に参加したため、旅費についても予定と異なった。 今後は、計画に沿って消耗品や計算プログラム等の購入を行っていく予定である。
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