研究課題/領域番号 |
16K06945
|
研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
田中 照也 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (30353444)
|
研究分担者 |
菱沼 良光 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (00322529)
吉野 正人 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10397466)
坂上 裕之 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (40250112)
佐藤 文信 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40332746)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 熱電対 / ひずみセンサー / 照射効果 / イオンビーム / 薄膜 / 組成変化 |
研究実績の概要 |
クロメル-アルメル熱電対温度センサーに対する中性子照射損傷の効果を模擬して調べるために、イオンビーム照射実験用の薄膜試料の製作と特性評価を進めた。DCマグネトロンスパッタ装置を用いてアルミナ基板上に厚み100-200nmのクロメル-アルメル薄膜試料の蒸着を行い、室温から約350℃までの範囲で市販のクロメル-アルメル線材と同様の応答を示すこと、また、核融合ブランケット温度である550℃においても薄膜の剥離は起こらず、照射試験に使用できることを確かめた。 イオンビーム照射については、大阪大学オクタビアン施設において、センサー薄膜試料に対する250keV、D+ビーム照射実験を開始した。熱電対センサーに対する照射効果の評価では、損傷部位に温度勾配を設けて起電力変化を観測する必要があるため、薄膜センサー試料の広範囲に照射損傷を与える必要がある。本照射装置を用い、10x10mm2から20x10mm2程度の領域にほぼ均一に照射損傷を与えられることを確かめた。はじき出し損傷量が約1dpaまでの照射を行ったが、センサー材料の電気抵抗値に顕著な増加は見られなかった。加熱ヒーターと冷却パイプを組み合わせることで、幅10-20mmの領域に大きな温度勾配を設けることができる起電力評価用の試料ホルダーを製作しており、照射部位の起電力変化の評価を進めている。 核融合炉での核変換に伴う組成変化の影響を調べるために、組成を調整したクロメル-アルメル試料の試作を行った。ブランケット第一壁近傍において7年間使用した場合の核変換量の計算結果に基づき、市販の線材をアルミナるつぼに入れ、さらにマンガン、鉄、コバルト粉末を最大3%程度添加し、真空加熱炉を用いて1600℃で溶解させた。特定の金属の著しい蒸発は見られず、組成調整が可能であることを確認した。熱処理による組成均一化の確認、起電力の評価実験を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、アルミナ基板上に厚み100-200nmのクロメル-アルメル薄膜試料の蒸着を行うが、試作開始当初のXPSによる元素分析結果は、装置内真空度が低いために、特にクロメルに含まれるCrが酸化していることを示唆していた。照射効果や組成変化等の本来評価すべき要素よりも、この材料酸化が特性に大きな影響を及ぼす可能性があることから、蒸着装置の真空度を約2桁改善して安定化させ、酸化を抑制した試料製作を可能とした。この改善に時間を要することとなり、当初の予定よりもW-26ReW熱電対の薄膜センサー試料の製作やイオンビーム照射実験の開始が遅れることとなった。 ただし、26ReW薄膜試料の製作については、蒸着ターゲット作製で問題となっていたワイヤの硬さの問題が加熱処理によって解決できる目途が立ち、H30年度にこの進展の遅れは取り戻せると考えている。また、イオンビーム照射実験については、アルミナ基板上に製作したクロメル-アルメル薄膜センサー試料に対して立ち上げ、照射に伴う薄膜の剥離等、当初懸念していた問題は見られないことを確認している。特に、ビーム照射位置の迅速な調整方法についても、本課題に適した手法を確立できたため、H30年度は多くの試料に対する照射実験を安定して行える状態にある。研究遂行が困難になる決定的な問題は起こっておらず、H30年度、イオンビーム照射後センサー試料、組成を変化させたセンサー試料のより正確な特性評価の推進を急ぐ。
|
今後の研究の推進方策 |
[1]イオンビーム照射済みセンサー試料の特性評価技術確立: イオンビーム照射により薄膜センサー試料の幅10-20mm、高さ10mm程度の領域に照射損傷を与えることができることを確かめたが、温度センサーとしての特性変化を調べるためには、加熱ヒーターと冷却水パイプを設けた試料ホルダーを用いてこの照射領域に温度勾配を設け、温度差と起電力の関係を評価することが必要となる。照射領域での実際の温度勾配の正確な評価、この温度勾配に対する照射済み薄膜センサー試料の起電力の正確な評価、の両方が必要であり、そのための測定回路系の妥当性検証を進め、評価技術の確立を目指す。また、FE-SEMやXPSを用いて、照射に伴うセンサー材料の界面状態の変化を調べる。 [2]組成変化に伴うセンサー特性変化の評価技術確立: クロメル-アルメル等のNi合金センサー材料については、1600℃程度での溶解処理により組成調整ができる見込みであるが、特に添加元素の局在化は正確な特性評価を妨げる可能性があるため、熱処理による元素分布の均一化処理とFE-SEMを用いたEDX測定等による均一化の確認を進める。W-ReW熱電対材料については、組成調整のためのアーク溶解作業が困難である可能性もあり、蒸着ターゲットに複数の金属を用いることで、組成調整されたスパッタ蒸着試料の効率的な作製が可能であるかを調べる。また、添加元素とセンサー特性変化の関係を重点的に調べる。 [3] 電子状態計算: 純金属と市販センサー材料の組成および核変換を模擬したセンサー組成の合金に対して、電子状態計算を行う。電子の輸送方程式より得られる情報と組み合わせることにより、電気特性変化を電子状態と対応づけ、最終的に特性変化の傾向を予測することを目指す。 研究進捗状況については、国内・国際会議において報告、議論を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
薄膜センサー試料へのイオンビーム照射実験立ち上げのために購入を予定していた端子付き真空フランジや照射位置合わせ用の直線導入器は、現在使用頻度が低くなっている別の実験装置に設置されているものを利用するができたため、新たに購入する必要がなくなった。 一方で、イオンビーム照射実験をより効率的に迅速に進めるためには、ビームラインの照射チェンバーを改造する必要があることが明らかになったため、H30年度にこの改造に必要な消耗品の購入に充てる。
|