本研究課題は原子核の励起準位のスピン・パリティならびにγ線の多重極度を決めることを目指したものである.それらの決定のために,γ線直線偏光度の測定に着目し,(1)コンプトン散乱の非対称度を測定することにより,γ線直線偏光度を得るための高感度な測定系を開発し,さらに(2)それをウランの核分裂反応で生成する質量数150近傍の中性子過剰核に適用し,信頼度の高い核データを得ることを具体的な目標としている. 本研究で開発した測定系は,クローバー型ゲルマニウム検出器(4つのゲルマニウム結晶を一つのハウジング内に配置したもの),ならびに相対効率が38%および60%の同軸型ゲルマニウム検出器から構成される.2017年度までの研究では,Eu152,Cs134およびCo60の標準γ線源を用いて,測定器の基礎特性を把握する実験を行うとともに,直線偏光度測定において最良の感度を得るための測定条件を探索した.その結果,各測定器を線源から10cmの距離に置き,かつ,60%検出器をクローバー検出器に対して90度方向に配置する条件が最良であることを見いだした. その上で,最終年度である2018年度は,京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉に付置されたオンライン同位体分離装置KUR-ISOLに上記の測定器を持ち込み,La146(半減期6秒)から放出されるγ線を測定した.その結果,統計精度がやや悪いものの,コンプトン散乱が非対称になることを実験的に確認した.検出効率を補正した非対称度を,標準線源を用いた実験で得た値を比較したところ,そのエネルギー依存性が一致した.このことから,短寿命核を対象とした実験で,直線偏光度の測定が実現可能であることを実証できた.
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