研究課題/領域番号 |
16K06958
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上原 章寛 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (30402952)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化ウラン / ナノ粒子 / 酸化還元反応 / コロイド |
研究実績の概要 |
地下水環境におけるアクチニド化合物の酸化還元挙動及び化学状態変化を把握することは、放射性廃棄物の適切な埋設処分方法を選定する上で重要である。申請者らは、常温の濃厚電解質水溶液(例えば14M塩化リチウム)中に溶存させたウラニル(VI)イオンが、電解操作によって二酸化ウラン(IV)として合成できることを見出している。本申請では、自然環境で生成が想定される二酸化ウラン・ナノ粒子の生成条件を把握するとともに、ナノ粒子の溶液化学的性質を明らかにすることを研究の目的とする。本申請の研究では、埋設環境で存在が想定されるウラン化合物や環境化学種の酸化還元挙動を電気化学的視点から定量的に評価し、想定される二酸化ウラン・ナノ粒子の生成反応を明らかにする。ナノ粒子の合成に先立ち、今年度は、UO2ナノ粒子の原料であるウラン化合物は溶液中に安定な状態で溶存させる必要があり、まず溶液への溶解が容易な塩化ウラン化合物(UO2Cl2、UCl4又はUCl3)を合成した。塩化ウラン化合物の合成作業は、ハロゲン化物の合成装置が整備されている東北大学多元物質研究所(多元研)にて実施した。塩化ウラン化合物は、大気雰囲気下で酸化されやすくかつ吸湿しやすいため、雰囲気が制御されたグローブボックスを使用した。高純度で大量に合成するために、実験温度やガス流量比の緻密な制御を行った。一例としてUCl4の合成方法を以下に示す。ウラン金属をマッフル炉にて800℃で4時間加熱しU3O8に酸化処理した。U3O8をガラス反応管にて四塩化炭素CCl4を含むアルゴンガスを450℃にて4時間通気しUCl4を合成した。この合成過程は、U3O8が還元される際に酸素原子が塩素原子に置換して塩化物が得られた。合成した塩化物はグローブボックス内で開封し、TG-DTA測定及びX線回折測定を行い、UO2ナノ粒子の合成原料に適していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウランのナノ粒子合成に先立ち、出発物質となる各種ウラン化合物の合成を行った。合成実験当初はUO2Cl2、UCl4又はUCl3の化合物合成を行ったが、それらに続いてUO2、UO3、UO4の合成も行うことに成功した。様々な出発物質を合成することで、様々なナノ粒子合成プロセスが構築できることを意味する。これらの化合物は、X線回折装置による純度確認を行い、高純度で生成する条件を最適化した。得られた知見は、ウランナノ粒子の合成の出発物質として用いられるのみならず、ウラン化合物の構造化学的視点においても貴重なデータとなる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度で作成したウラン化合物を用いて、今年度はウラン化合物を合成する過程に移る。ウランイオンを還元させるために必要な還元剤、保護剤及び無機イオン液体の選定等を、今までに得られた知見および文献に基づいて調査する。まず、各種無機イオン液体中におけるウランイオンの酸化還元過程を電気化学的測定法及び分光学的手法を用いて明らかにする。用いる電気化学測定法は、サイクリックボルタンメトリー、ディファレンシャルパルスボルタンメトリー、回転電極を用いるリニアスイープボルタンメトリーである。電極反応の可逆性について考察するため、白金電極、炭素電極等の電極を用いる。観察された電位及び電流ピークをもとに、拡散係数、速度定数など速度論的な情報も同時に取得する。なお、酸素が溶存すると還元されたUO2が再酸化される可能性があるので、不活性なアルゴン雰囲気の簡易グローブボックスを用いて実験を行う。無機イオン液体の種類として、塩化物塩あるいは硝酸塩を用い、ナノ粒子合成に及ぼすそれらの濃度依存性を調査する。保護剤として、ウランと親和性の高い、酢酸、トリブチルリン酸などの酸素原子を有する配位子を用いる。上述の電気化学測定のための装置の費用を計上した。電気化学測定の結果をもとに、UO22+が還元されうる酸化還元電位を有する還元剤(例えば水素化ホウ素ナトリウム)を加えることによって無電解でのナノ粒子合成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画において、昨年度はウラン化合物を合成するために時間を要したため、ウランのナノ粒子合成のための文献調査及び装置の設計を今年度に移行させたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、ウランナノ粒子合成のために必要な装置及び試薬を購入する。溶液の種類や酸化還元試薬の選択を文献調査に基づいて行い、ナノ粒子が生じる可能性の高い実験条件を最適化する。
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