研究課題/領域番号 |
16K06966
|
研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
古渡 意彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 放射線管理部, チームリーダー (80391283)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 環境放射線 / 環境ガンマ線モニタリング / 環境放射能 / 放射線防護 / 保健物理 / ガンマ線計測 |
研究実績の概要 |
研究初年度である平成28年度には以下について実施した。 (1)円筒形CeBr3及びSrI2(Eu)シンチレーション検出器について、検出器からの波高分布から線量当量率及び空気カーマ率へ変換、並びに光子フルエンス率を導出するための応答関数のセットを、EGS4及びMCNPを用いて作成した。 (2)上記の応答関数を用い、検出器の波高分布から妥当な線量評価が可能か、ドイツ連邦物理工学研究所(PTB)放射線防護線量計測グループの運用する極低線量率γ線校正場において、各検出器のエネルギー応答特性及び線量当量率応答特性を評価した。一連の実験及び評価の結果、研究代表者が用いたG(E)関数法及び新規に導入したスペクトルアンフォールディング法で得られた線量当量率及び空気カーマ率は、SrI2(Eu)検出器による241Amγ線の線量測定を除き、基準値と比較して10%以内で一致した。特に、CeBr3検出器では、アンフォールディング法による結果が良好であった。上記の結果より、検出器の波高分布から正確なγ線スペクトルが取得可能であることを示している。 (3)円筒形CeBr3及びSrI2(Eu)シンチレーション検出器の線量率応答特性についても、同地で実施した。その結果、137Csγ線に対して、10 nSv h-1から100 nSv h-1の線量当量率で、直線応答することが確認できた。また、極低線量率環境でのバックグラウンド計測から、CeBr3検出器の結晶製造時に混入する227Acによる自己汚染によるバックグラウンドが7 nSv h-1程度に相当することが明らかとした。 (4)円筒形CeBr3及びSrI2(Eu)シンチレーション検出器を用い、環境γ線計測の予備試験を行った。(2)で確認された手法を用い、環境中の線量当量率について妥当な値(約110 nSv h-1)を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成28年度中に、従来型のNaI(Tl)と比較して高エネルギー分解能で、高速に応答し、LaBr3(Ce)と比較して自己照射によるバックグラウンドが低い、CeBr3及びSrI2(Eu)円筒形シンチレーション検出器を入手予定であったが、いずれも1インチ円筒形サイズの検出器を入手し、波高分布のエネルギー分解能の測定に加え、スペクトル取得の下限線量率を測定で評価できた。 各検出器の波高分布からの線量率導出のため、EGS4を用いた計算シミュレーションで得られた応答関数から、各検出器のG(E)関数を作成した。さらに、波高分布からγ線スペクトルを取得するアンフォールディング法のための応答関数を、MCNPを用いて求めた。得られたG(E)関数、及びスペクトルの分解及び放射能濃度分析に必要な応答関数については、日本原子力研究開発機構放射線標準施設棟で整備された放射線校正場及びドイツ連邦物理工学研究所(PTB)放射線防護線量計測グループの運用する極低線量率γ線校正場で評価され、いずれも妥当な線量率を与えることが確認できた。 さらに、平成29年度実施予定であった、線量率測定に関して、屋外の一般環境(0.1 μSv h-1程度以下)における環境γ線計測を実施し、環境中の線量当量率について妥当な値(約110 nSv h-1)を得た。 上述のとおり、ほぼ計画通り研究が遂行できた一方で、線量率応答特性に関し、各検出器の線量率応答の上限値の評価までは実施できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目である平成29年度では、放射能濃度導出のために必要な初期推定スペクトルを作成・検証を行い、放射能度濃度を推定する手法の開発に着手する。初期推定スペクトルは事前に計算コードで推定し、初期推定スペクトルを考慮してアンフォールディングコードを使用し、検出器で得られた波高分布からγ線スペクトルを取得する。得られた各エネルギービンのγ線フルエンス率から、(a)検出したγ線イベントから予測できる放射性物質の同定、及び(b)全て放射性プルーム中の放射性物質からのγ線と仮定して、空気中放射能濃度の推定を行う。 放射性プルームの模擬は、規制対象外線源(241Am,133Ba等)を用いて行う。測定対象として131Iからのγ線を想定した線量率・放射能濃度評価を行う際には、放出されるγ線エネルギーが近い133Ba標準線源を使用することが有用である。そこで、研究代表者のグループで運営するγ線校正場の一部として設定済みの133Ba線源からのγ線を用い、検出器の角度応答特性及び線量率特性を測定により評価する。133Xeからのγ線に対しては、133Baからのγ線が同じエネルギーを有している(81 keV)が、基礎試験の時点では、241Am線源(59.6 keV)からのγ線で代替することも検討する。その際に、131Iを観測した場合に生じうるイベントと分離して評価可能かどうかも検討する。 これらに加え、屋外の一般環境(0.1 μSv h-1以下)における環境γ線計測を通じ、開発した手法の線量率測定及び放射能濃度決定に関し実証試験を行う。特に、整備済みの各検出器で得られた、同じ波高分布にアンフォールディング法を適用し、土壌中の天然放射性核種である40K及び208Tl、及び地表面の人工放射性核種137Cs及び134Csの定量を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度について、請求した助成金を当初計画通りに利用できた。しかしながら、海外出張に係る為替レート、航空券代塔による端数が生じたと同時に、購入した消耗品が一部想定した価格より安価に入手できたこともあり、3,603円の残金が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、請求した助成金を検出器保持用治具の製作、ガンマ線の入射方向制限のための指向用遮へい体の製作・購入費、国際学会参加費、ドイツ連邦物理工学研究所への検出器特性試験実施のための旅費等に充当する。平成28年度使用額については、平成28年度に購入予定であった実験資器材のうち、検出器保持用治具製作に係る材料費に充当することとする。
|