本研究では「化学蓄熱セルシステム」を提案した.これは,化学蓄熱槽を乾電池のように取扱うことを目指し,各種排熱や自然エネルギーを用いて蓄熱し,これを必要な場所に運び,あるいは必要な時期に放熱させるシステムである.本研究では,システムの中心となる反応粒子充填層内の伝熱速度改善に関する検討を主に行った.粒子充填層は,一般に,その見かけの熱伝導率(有効熱伝導率)が低いことが課題となっていた.このため,従来化学蓄熱では,充填層内に複雑な熱交換器を設置しなければならず,「セルシステム」実現の障壁となるためである.粒子充填層の有効熱伝導率が低い原因として,粒子-粒子同士および粒子-伝熱壁面間の接触状態が点接触(伝熱面積が限りなく小さい状態)となることが大きく影響していると考えられる.そこで,粒子の接触部に伝熱促進材で架橋を形成する方法を提案し,これを実験的に検討した.アルミナ粒子を用いたモデル充填層に,ナノ炭素材料により架橋を形成したところ,有効熱伝導率は5倍程度向上した.また,空気を充填層に透過させて圧力損失を測定したところ,伝熱促進の施工に伴う圧力損失増加は2割程度に抑えられた.しかも,伝熱促進に伴う充填層高さの変化は無く,充填密度へ及ぼす影響もほとんど無かった.充填密度,ガス透過性を維持できる伝熱促進法はこれまでに無く,画期的である.また,本架橋作成法を他の粒子でも検討した.最終年度では,架橋形成時の粒子間の伝熱を理論的に検討した.その結果,ある特定の架橋サイズ以上でないと,伝熱促進効果が得られないことがわかった.また,伝熱促進材で反応粒子で覆ったときの伝熱促進効果は少なく,粒子を充填した際に形成される架橋の効果が大きいことがわかった.理論的な見かけ熱伝導率の最大値は,粒子の熱伝導率に依存することがわかった.得られた結果を一般化するために,架橋作成時の伝熱のモデル化も検討した.
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