研究課題/領域番号 |
16K06979
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
西垣 勉 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (80251643)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 圧電フィルム / エネルギーハーベスティング / 環境発電 / 風力発電 |
研究実績の概要 |
本研究では,適切に形状設計された圧電フィルムがその表面に貼付されて一体化され,波動発電機能を実装したスマート発電ダクトを開発し,サイズを大きくした場合に圧電体の面積比以上の発電量が低風速域でも得られる構造体の設計基準について示すことを目的としている.平成28年度は,薄いプラスチック製の柔軟発電体を作製し,その表裏に圧電フィルムを貼付し,圧電フィルムの形状は,第一段階として長方形状とし,その出力電圧を精密に測定して発電量を評価し,μWオーダーの発電量を増大させる手がかりを得ることとした. まず,厚さ0.1mm,直径80mm,軸長300mm程度のサイズのプラスチック製の円筒を作成した.これを鉛直方向に配置しその両端を緩く支持した上で、水平方向に風力を与えたときの振動挙動を観測したところ,風速によって振動挙動が大きく変化することが確認できた.そこで,さらに詳細に観測するためにダクト上部から軸方向にハイスピードカメラを設置し,カメラからの映像を分析した結果,低風速域では支持軸回りの回転運動が主となるような振動挙動が観測され,中風速域では円筒の円周方向波動が現れ曲げ振動が発生する領域があることがわかった.圧電素子による発電は,ダクトの面内ひずみを利用するものであるため,面内振動が発生するのはこの円周方向波動が強く励起される条件となるため,この波動を利用したダクトの設計方法へと検討をすすめた. 基礎的な例として,上記のダクトの支持軸付近に長方形状圧電フィルムを貼付した場合について,圧電素子の出力電圧と振動挙動を同時に観測し,発電量の評価をこころみた結果,上記の円周方向波動を活用することによって発電量が大幅に向上する可能性のあることが見出された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度となる平成28年度は円筒形状の柔軟なダクトを作成して,これに圧電フィルムを一体化させた発電ダクトによる微小電力発生用風力エネルギーハーベスターの発電量向上可能性を示すことを狙いとしていた.研究実績の概要に報告した通り,試作した代表的な一つのケースについて,風力により励振されたダクトに生じた波動による曲げ振動を活用することで,発電量が向上する場合があることが見出され,またハイスピードカメラの使用により,優れた発電特性を示す場合のダクトの振動挙動を詳細に観測して,発電メカニズムを考察することができるようになった.これらの成果により,研究計画申請時に狙いとしたダクト形状発電旗と圧電フィルムによる振動波動挙動を活用した風力エネルギーハーベスターについて検討する価値があることが十分に示される結果となった. これらの成果をもとに,第二年度、第三年度においては,種々のパラメータを変更した場合の実験を継続して実施し,研究の最終目標とする,低風速域における発電量の向上が見込める発電ダクトの設計法を明らかにできる可能性が高まったと言える. 以上の考察により,本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられるため.
|
今後の研究の推進方策 |
第一年度の成果により,圧電フィルムを用いた発電ダクトの可能性が見出されたため,今後は発電特性に影響を与えると考えられる,ダクトのサイズおよび材質,風速,圧電フィルムのサイズや貼付位置などを変更させながら,同時にハイスピードカメラを用いたダクトの振動波動挙動の観察を実施し,これらの結果を分析・考察することで,発電量が向上する条件と,そのメカニズムを明らかにすることを目的に実験を継続していく予定である. 本研究課題の最終目標は,低風速域における発電量の向上方法を明らかにすることであり,風励振による流体と構造の連成振動を最も有効に利用する条件を見出すべく,本実験系のエネルギーハーベスターとしての最適設計条件を明らかにできればと考えている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画として,平成28年度にシロッコファンを用いた風洞の作製費,2Dデータ解析ソフトウェア購入費,データ処理用PC購入費などを見込んでいたが,研究が進展して,平成28年度に作製したコンパクトな発電ダクトによる実験においても良好な成果が得られたため,これらの機器の作製・購入を平成28年度には実施せず,研究計画を修正して平成29年度以降に実施することとしたため.
|
次年度使用額の使用計画 |
ハイスピードカメラで得られた動画と圧電素子の出力電圧を詳細に分析・考察するためにはデータ処理用PCが今後必要となるため,平成29年度での購入を予定している.またハイスピードカメラのレンズについてもダクトのサイズによっては広角なものが必要となる可能性もあり,平成29年度での購入を検討する.一方,2Dデータ解析ソフトウェアについては,本研究の発電ダクト回りの流体の挙動の分析が困難との見通しとなったため,代替ソフトウェアの購入にあてる可能性があり引き続きソフトウェアによるシミュレーションの可能性を検討する.さらに,発電ダクトの固有振動数を把握する必要が生じてきたため,ダクト加振用のミニシェーカの購入を検討している.
|