本研究では,圧電フィルムがその表面に貼付されて一体化され,波動発電機能を実装したスマート発電ダクトを開発し,圧電体の面積比以上の発電量が低風速域でも得られる構造体の設計基準について示すことを目的とした.平成28年度には,厚さ0.1mm,直径80mm,軸長300mm程度のサイズのプラスチック製の円筒を作成し,これを鉛直方向に配置しその両端を支持した上で、水平方向に風力を与えたときの振動挙動をハイスピードカメラで観測した結果,低風速域では支持軸回りの回転運動が主となるような振動挙動が観測され,中風速域では円筒の円周方向波動が現れ曲げ振動が発生する領域があることがわかった.平成29年度はこれに引き続き、円周方向波動を低風速域で励起する条件について検討した.円環の振動を表す運動方程式から薄肉円環の固有振動数の理論解析解を導き,上記のサイズを持つ薄肉円環について解析した.さらに,薄肉円環への励振力は渦によって発生するものと考え,中実円柱の場合の渦発生周波数を円環の半径の関数として表し,これらの2つの周波数が一致すると共振と同じ効果が起き曲げ振動の振幅が大きくなり,発電量が大幅に大きくなるものと考察した結果,円環を薄肉にするか,現状のままで半径を大きくするとこの条件を満たすことを明らかにできた.平成30年度には以上を実証すべく,円環の試片を作製しその固有振動数を解析値と検討し概ね一致することを確認した上で、発電量の実験的検証を行った.圧電素子による発電は,ダクトの面内ひずみを利用するため,面内振動が発生するのは円周方向波動が強く励起される条件となり,波動を利用し上記のダクトの支持軸付近に長方形状圧電フィルムを貼付した場合について,圧電素子の出力電圧と振動挙動を同時に観測し,発電量を評価した結果,上記の円周方向波動を活用することによって発電量が大幅に向上する可能性のあることが見出された.
|