研究課題/領域番号 |
16K06989
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野村 洋 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (10549603)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳・神経 |
研究実績の概要 |
記憶は生物の行動を制御する重要な脳機能である。記憶障害は認知症の主症状の1つで、生活の質を著しく低下させる。記憶、学習は獲得、固定化、想起の3つの過程に分類されるが、実際の記憶成績の低下は想起の障害によって引き起こされることが多い。一度は覚えたが時間の経過や認知症の進行によって思い出せなくなる。しかし、手がかりを与えられると再び思い出せるようになることから、脳内に記憶痕跡は残っていると考えられる。一見失われたように見える記憶も、記憶の想起を増強すれば回復できると考えられる。しかし、記憶の想起を増強し記憶を回復させる研究は非常に乏しく、記憶を回復させる薬物は存在しない。ヒスタミン神経系は記憶、学習に深く関与する。そこで、ヒスタミン神経系を活性化させれば、記憶の想起が改善し、一度忘れた記憶も回復するのではないかと考えた。 これまでに嗅周皮質の急性スライス標本を用いた検討で、ヒスタミンが自発活動を上昇させることを明らかにした。そこで、自発活動の上昇が記憶の回復に十分かを調べた。 DREADDシステムを用いて、PRhニューロンの自発活動を上昇させた。野生型マウスのPRhの興奮性ニューロンに、hM3D(Gq)受容体を発現するAAVを投与した。リガンドであるCNOを投与し、PRhニューロンの自発活動を上昇させた場合、忘れた記憶が回復するかを調べた。新規物体認識試験を用いて記憶の想起を評価した。1日目にトレーニングを行い、7日目にテストを行った。テスト前にCNOを投与し、PRhの自発活動を上昇させた。その結果、新しい物体に対する探索時間が長くなること、つまりPRhの自発活動の上昇によって古い物体を思い出せるようになることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒスタミンH3受容体逆アゴニストの投与によって、失われた記憶が回復する現象について、2016年度は自発活動の上昇がメカニズムの1つであることを明らかにした。DREADDシステムを用いて、嗅周皮質の自発活動を人為的に上昇させた。記憶が想起できなくなったマウスに対して、嗅周皮質の自発活動を上昇させた場合、このマウスは記憶を思い出すことができた。これは、当初の計画通りの準備、実験を行った結果である。さらに、次年度以降の研究をスムーズに進めるため、ヒスタミンニューロンを選択的に操作するための遺伝子改変動物(HDC-Creマウス)の準備を進めている。マウスを所属研究施設に導入し、繁殖を進めている。また、ヒスタミン神経系を活性化した場合、in vivoで神経活動に与える影響を調べるため、神経活動のイメージング法の開発にも取り組んでいる。以上のことを総合的に評価し、本研究課題は概ね順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、ヒスタミン放出を増大させるH3受容体逆アゴニスト投与によって、忘れた記憶を回復できることを示してきた。しかしこの結果だけでは、薬物の副作用によって記憶が回復した可能性を厳密には排除できない。そこで、オプトジェネティクス法を用いてヒスタミンニューロンを選択的に活性化し、忘れた記憶が回復するかを検証する。 ヒスチジン脱炭素酵素(HDC)のプロモーター下流でcreリコンビナーゼを発現する“HDC-creマウス”を用いる。HDCはヒスタミン合成に関与する酵素で、ヒスタミンニューロン選択的に発現する。HDC-creマウスの結節乳頭核(ヒスタミン神経の起始核、TMN)に、cre依存的にチェネルロドプシン2を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与する。光ファイバーを嗅周皮質(PRh)に埋め込む。PRhに青色光を照射することで、PRhへのヒスタミン放出を増大させる。新規物体認識試験を用いて、記憶の想起を評価する。1日目、物体X(古い物体)をマウスに15分間提示する(学習)。7日目、物体Xと新しい物体Y をマウスに提示する(テスト)。マウスが古い物体を思い出せれば、新しい物体を長い時間探索する。しかしコントロールマウスは古い物体を思い出せず、古い物体と新しい物体に対する探索時間は同等になる。7日目のテスト中に、オプトジェネティクスを用いてPRhへのヒスタミン放出を増大させる。そして新しい物体に対する探索時間が長くなるか、つまり古い物体を思い出せるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
脳深部からイメージングをするためにGRINレンズを購入する予定であったが、現在までに取得したデータをひとまず解析してから今後のイメージング実験の予定をたてることにしたため、GRINレンズの購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
膨大なイメージングデータの解析を済ませた後に、購入するGRINレンズのタイプを決定する予定である。未使用額はその購入費に充てる予定である。
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