研究課題
記憶障害の多くは想起の障害によって生じるが、想起を増強する神経回路レベルの研究は乏しく、想起の増強を可能にする薬物は存在しない。これまでに申請者は、H3受容体逆アゴニストがヒスタミン放出を増大させ、マウスおよびヒトの記憶想起を増強させることを明らかにしてきた。そこで本研究では、神経活動を選択的に操作する手法を活用して、「ヒスタミン神経系の活性化が想起を増強し、失われた記憶を回復させること」を明らかにするために研究を行った。神経活動を選択的に操作するためにDREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)システムを用いた。DREADDの1つであるhM3Dqもともとヒトのムスカリン受容体だが、変異が含まれているために内因性のアセチルコリンとは結合せずに、人工的なリガンドであるCNO (Clozapine-N-Oxide)と結合する。CNOがhM3Dqに結合すると、導入した神経細胞は活性化する。マウスに新規物体認識試験を取り組ませ、そのテスト前にDREADD法を用いて、ヒスタミン神経系を選択的に活性化した。1週間後のテストにおいて、コントロールマウスはほとんど物体を思い出さなかったが、ヒスタミン神経を活性化させたマウスは物体の記憶を思い出した。ヒスタミンは嗅周皮質の神経細胞を興奮させる働きを有している。そこで嗅周皮質の神経細胞の活動をDREADD法を用いて選択的に活性化させた。新規物体認識試験のテスト前に、嗅周皮質の神経細胞の活動を上昇させると、この場合もマウスは物体の記憶を思い出した。本研究は、ヒスタミン神経系が認知機能障害の治療におけるターゲットになることを示唆する点で意義が大きい。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Biological Psychiatry
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
https://doi.org/10.1016/j.biopsych.2018.11.009
Molecular Brain
巻: 12 ページ: 21
https://doi.org/10.1186/s13041-019-0443-6