研究課題/領域番号 |
16K06990
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川口 綾乃 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90360528)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経発生 / 神経前駆細胞 / 神経分化 |
研究実績の概要 |
生体内で新たな組織が形成されていく過程では、しばしば他領域からの細胞の離脱と新組織への移動が起こる。大脳皮質原基の神経上皮組織(脳室帯)から、分化しつつある細胞がニューロン層を形成するために離脱する「脱上皮化」の過程は、細胞離脱の分子機構と、組織形成におけるその意義を解明する上で良い実験モデルである。上皮間葉転換に関与する分子がこの移動開始に関与するとする報告があるものの、脳室帯にある細胞集団の中から、分化細胞がその誕生から数時間のうちに速やかに離脱する現象を説明する具体的な分子機構は未だ不明である。一方、代表者が単一細胞の網羅的遺伝子発現プロファイルに基づいて神経前駆細胞(神経幹細胞)の分化に伴い極めて早期の段階で発現開始する遺伝子の一つとして同定した分子は、代表者のこれまでの研究結果から、この細胞離脱現象に関与していることが示唆されている。本年度は、本分子がどのようにして細胞離脱を引き起こすのか、その具体的な機構を明らかにするため、特に細胞骨格系(アクトミオシン系、微小管系)の関与と、脳室面直下に存在する細胞突起を接着する構造(adherens junction belt)の変化に注目した実験を行った。これらに対して本分子のマウス胎児脳組織への強制発現あるいはノックダウン・ノックアウトが与える影響を、ライブイメージングならびに固定組織において評価し、さらに細胞骨格系に対する特異的な阻害薬剤等を加えて詳細な検討を行った結果、本分子が分化早期のタイミングでミオシンの活性化依存的に細胞突起の頂端面の収縮を引き起こすこと、それに伴いadherens junction beltに存在する細胞接着分子の発現が低下すること等を明らかとすることができた。本研究で得られた成果を学会で報告するとともに学術論文として国際学術誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳室面側からのライブイメージングや固定組織の解析と各種機能実験と組み合わせることで、幼若ニューロンの脳室面離脱を引き起こす細胞骨格・細胞接着帯構造物のダイナミックな変化に本分子がどのように関与するのかを明らかとすることができた。前年度までに得られた知見と合わせ、当初掲げていた本課題研究の目的の中で特に重要な部分がほぼ達成できたと考えられるため、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究成果を取りまとめて投稿した論文は現在リバイズ中であり、平成30年度は査読者から要求された複数の追加実験に対応する。並行して、特に本分子の発現阻害時に観察される細胞骨格系の変化に注目したライブイメージングと超解像度顕微鏡による解析、さらに本分子の過剰発現が惹起する細胞の位置変化が組織構築へ与える影響の評価を行う予定にしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は論文の執筆と投稿に若干の時間を要したため、消耗品代の一部が未使用となっている。現在投稿中の論文に対して、査読者からフェレットを用いた追加実験を要求されているため、これら実験動物の購入費用として使用する予定にしている。
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