研究課題/領域番号 |
16K07013
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
大塚 岳 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 助教 (10390692)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 基底核 |
研究実績の概要 |
脳の高次機能を担う大脳皮質の情報処理様式の特徴として、大脳皮質は皮質下領域や他の皮質領野に多様な出力を行っていることが挙げられる。研究代表者は、これまでに様々な投射領域に対応した錐体細胞サブネットワークを同定した。また、皮質の主要な介在細胞であるfast-spiking(FS)細胞同士はギャップジャンクションを介して電気結合し、抑制性のサブネットワークを形成していることが知られている。錐体/FS細胞間の結合様式について、電気結合に依存して錐体細胞から共通入力を受けることを示した。さらに、錐体/FS細胞間は錐体細胞サブタイプに依存せず相互結合を形成していることも示した。これらのことから、FS細胞は錐体細胞サブネットワーク間の活動を協働させる役割を担っていると考えられる。錐体細胞サブタイプの皮質回路におけるネットワーク活動の制御機構を理解するために、オプトジェネティクスを用いて錐体細胞サブタイプ選択的に神経活動を操作し、誘発される神経活動について検討した。その結果、錐体細胞サブタイプ依存的にオシレーション活動が錐体/FS細胞間で発生することがわかった。オシレーション活動は様々な脳の高次機能に関与していることが知られている。そこで、本研究課題では錐体細胞サブタイプ依存的に発生するオシレーション活動の運動学習への寄与と皮質‐基底核線条体投射の運動学習による調節機構を明らかにすることを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、回転カゴを用いた足場バーのパタン運動学習において、錐体細胞サブタイプ選択的に神経活動を光操作し錐体細胞サブタイプの学習への寄与をラットを用いて検討した。その結果、特定の5層錐体細胞サブタイプが運動学習の形成に重要な役割を担っていることが示唆された。 平成29年度は、運動学習による皮質‐基底核シナプス投射の調節機構を理解するために、皮質から線条体への錐体細胞サブタイプの投射様式について検討した。線条体の投射細胞タイプは、記録後に単一細胞のRT-PCR法を用いて同定した。チャネルロドプシンを片側の運動野に発現させたラットを用いて、ラベルされた神経終末への光刺激を行いシナプス応答を誘発することによって2/3層や5層錐体細胞サブタイプの同側線条体へのシナプス投射を線条体細胞タイプ別にスライスパッチ法で検討した。その結果、線条体の主要な細胞タイプである投射細胞(D1またはD2受容体陽性)、FS細胞、non-FS細胞、Chat陽性細胞において2/3層や5層からシナプス入力がみられた。5層錐体細胞サブタイプ間では、線条体への投射様式に違いは見られなかったが、2/3層と5層間では介在細胞への投射に違いがみられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、運動野にチャネルロドプシンを子宮内電気穿孔法を用いて錐体細胞タイプ選択的に発現させたラットを用いて、回転カゴを用いたパタン学習を行わせる。その後、スライス標本を用いて、2/3層錐体細胞や5層錐体細胞サブタイプからの線条体投射様式の解析を行う。運動学習を行わなかった動物と比較することによって、学習による皮質‐線条体投射の調節について検討する。また、同側と対側線条体への投射様式の違いについても線条体細胞タイプ間で同様に比較・検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、チャネルロドプシンを発現させたラットを用いて皮質-線条体の投射様式についてスライス標本を用いて解析した。線条体の投射細胞や介在細胞の細胞タイプの同定法を確立することに時間を要したため使用額が見込み額を下回った。平成30年度は、引き続きスライス標本を用いて皮質-線条体投射の解析を行う。実験に必要な相当数の動物を購入するとともに、細胞タイプの同定に必要なRT-PCRキットを随時購入する。
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