研究課題/領域番号 |
16K07017
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大西 哲生 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究 センター, 副チームリーダー (80373281)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 均衡型転座 / 転写因子 / レアバリアント |
研究実績の概要 |
統合失調症の病因は未だはっきりしないが、遺伝要因の貢献は明白である。common variantの役割に着目した遺伝子研究は、候補遺伝子の数が膨大になること、個々のvariationのeffect sizeが小さいこと、従って生物学的機能への影響を明白にするのが難しいなどといった理由から、病因や病態生理を明らかにしその後のち療法予防法開発へ向けた展開が極めて困難となっている。そこで、我々は極めて稀だが、単一の遺伝子変異が病因に与えた影響が大きいと考えられる症例に着目している。すでに報告したde novoの均衡型染色体転座を伴う統合失調症症例に関してそのゲノム解析を行い、4番染色体切断点近傍にある遺伝子として同定したLDB2 (Lim Domain Binding 2)の転写調節因子としての機能解析を行うことで、LDB2ネットワークと精神疾患の関わりを探るのが本研究の主題である。LDB2はファミリータンパクのLDB1と同様、DNA結合ドメインは持たないものの各種転写関連因子と結合することで、下流遺伝子の発現を調節する機能を果たすと予測されたが、我々の研究以前には詳しい解析はほとんどなされてこなかった。研究期間開始前までに、LDB2 KOマウスに統合失調症様行動変化が現れること、野生型マウスと比較して、KOマウス脳では様々な遺伝子の発現変動が見られることを明らかにしてきた。H29年度は我々が独自に開発したLDB2特異的抗体を用いたChIP-seq解析によりLDB2が直接制御する遺伝子群の同定を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精神疾患とのより直接的な関連性を議論できることからChIP-seqの材料としてヒト由来培養細胞を用いることとした。LDB2は中枢神経系以外でも発現していることをWB等で確認しており、それぞれの組織特異的な転写調節複合体を形成する可能性が想定される。そこで本研究では脳神経系のモデルとして健常対照者から樹立したiPS細胞を利用し、そこからneurosphere(神経幹細胞が高度にenrichされている)、さらには神経細胞を作成、LDB2のタンパク質レベルの発現を確かめたところneurosphereに強い発現を認めたことから、neurosphereを実験材料として利用することとした。我々が独自に開発したLDB2抗体は、非常によく似た構造を持つファミリータンパク質LDB1との交差性が無いことも確認した。この抗体でクロマチン免疫沈降を行い、ライブラリーを作成、次世代シークエンサで解析、マッピングを行うことで10000箇所以上ものピークを検出した。一部のピークはKOマウスで遺伝子発現が変動していたものと一致しており、LDB2が直接制御する遺伝子の候補と考えられた。またLDB2はDNA結合ドメインを持っていないことから、何らかのDNA結合タンパク質と結合することによりDNAと複合体を形成していると考えられる。そこで、LDB2でChIPされた配列の中にどのような既知転写因子の結合モチーフが存在するかを検討したところ、EGR (early growth response)ファミリーのコンセンサス配列が濃縮されることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
EGRに関して我々はすでに統合失調症死後脳サンプルにおける遺伝子発現の低下や統合失調症との遺伝統計学的な関連を報告している(Yamada et al. PNAS, 2003)。これらのことから統合失調症の病態生理や病因と「LDB2-EGR軸」の関連性という新たな研究パラダイムを生み出せる可能性がある。平成30年度は、実際にLDB2とEGRファミリーが脳組織において結合しているのかを生化学的な方法(免疫沈降法など)、免疫組織化学的な方法により検討した上で論文化に進む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、条件設定に戸惑ったためChIP-seq解析の結果を得るまで相当の時間を要し、 その後の解析が今年度に持ち越しせざるを得なかったためである。 未使用額は主にLDB2複合体性状解析のための生化学試薬(抗体、ウエスタンブロット試薬、免疫組織化学用試薬 一般消耗品など)を購入するために使用する予定である。
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