統合失調症の病因は未だはっきりしないが、単一の遺伝子変異が病因に与えた影響が大きいと考えられる症例に着目した。すでに報告したde novoの均衡型染色体転座を伴う統合失調症症例に関してそのゲノム解析を行い、4番染色体切断点近傍にある遺伝子として同定したLDB2 (Lim Domain Binding 2)の転写調節因子としての機能解析を行ってきた。LDB2はファミリータンパクのLDB1と同様、DNA結合ドメインは持たないものの各種転写関連因子と結合することで、下流遺伝子の発現を調節する機能を果たすと予測されたが、我々の研究以前には詳しい解析はほとんどなされてこなかった。研究期間開始前までに、LDB2 KOマウスに統合失調症様行動変化が現れること、野生型マウスと比較して、KOマウス脳では様々な遺伝子の発現変動が見られることを明らかにしてきた。H29年度からH30年度にかけては、我々が独自に開発したLDB2特異的抗体を用いたChIP-seq解析を進め、LDB2が直接制御する遺伝子群の同定を行なった。今年度は、in silicoデータマイニングやLdb2 KOマウス等を用いたwet解析を進め、現在必要なデータを揃え、発表論文を準備し終えたところである。非常に面白いことに、LDB2抗体によるChIP解析の結果、EGR (early growth response)ファミリーの転写因子の結合モチーフが濃縮されること、実際にEGR抗体とLDB2抗体によるChIP seqで得られるピークの多くにオーバーラップが見られることを見出した。したがってLDB2は直接DNAに結合しえる転写因子であるEGRファミリーと協調して、精神疾患に関わる遺伝子群の発現調節を行うことが強く示唆された。
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