研究課題
AUTS2は大脳皮質や海馬など高次精神機能を司る脳領域で高発現し、自閉症や知的障害、統合失調症など様々な精神疾患との関連性が示唆される遺伝子である。これまでに我々は、AUTS2が細胞骨格系を介し、脳室帯から生み出された神経細胞が大脳皮質へと向かう神経細胞移動の制御や、その後の神経突起伸長に関与することを見出してきた。しかしながら成熟脳におけるAUTS2の生理的役割やAUTS2変異による精神疾患病態については未だ明らかになっていない。そこで本研究ではシナプス形成に着目し生後脳発達期におけるAUTS2の生理機能について調べた。まず、Auts2変異マウス海馬由来の初代培養神経細胞では、正常マウスに比べて興奮性シナプスが過剰に形成されることを見出した。一方で興味深いことに、抑制性シナプスの数には変化がなく、つまりシナプス密度が興奮性シナプスに偏っていることが示唆された。また、マウス個体レベルにおいてもやはり、内側前頭前皮質表層や海馬など様々な脳領域で興奮性シナプスが有意に増加していることを確認した。さらに電気生理学解析から、上記の脳領域で興奮性神経回路の過活動が認められ、Auts2変異マウス脳では興奮性/抑制性神経回路の不均衡が生じていることを明らかにした。また、Auts2 変異マウスを用いた行動解析では、社会性行動の低下や音声コミュニケーションの障害が認められ、ヒトの自閉症様症状を反映する様な表現型が得られた。さらにこれらに加えて、記憶障害やプレパルス抑制の低下(感覚フィルターの障害)および不安様行動の低下(情動制御の異常)を示すなど、様々な表現型を見出した。よって本研究から、AUTS2変異によって引き起こされる精神疾患の解剖・生理学的病因の一つとして神経回路形成におけるシナプス機能異常が見出された。
すべて 2018
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Neuron
巻: 100 ページ: 1097~1115.e15
10.1016/j.neuron.2018.10.008