前庭脊髄路は、脊椎動物が平衡感覚器で感知した重力の情報に基づいて体幹や四肢の筋肉を制御し、姿勢制御を行う際に重要な経路である。しかし、長い研究の歴史に関わらず、前庭脊髄路から脊髄内のどのようなタイプの介在ニューロンを介して、最終的に運動ニューロンが制御されているかの詳細は不明である。この研究が従来困難であったのは、実験系が複雑であったことや、前庭神経核内にある脊髄投射ニューロンや脊髄介在ニューロンの多様なタイプを同定する手段が乏しかったことのためである。本研究では、ゼブラフィッシュ仔魚を材料に用いることで、上述の困難を克服し、前庭脊髄路からどのようなタイプの脊髄介在ニューロンを介して、運動ニューロンが制御されているのかを明らかにすることを目的とする。今年度は、ゼブラフィッシュ仔魚を重力方向に対して傾けて前庭刺激を与えながら、ゼブラフィッシュ仔魚ニューロン群のカルシウムイメージング実験を行うためのカスタム顕微鏡を構築した。カスタム顕微鏡は、電動回転ステージにミラー・対物レンズ・試料保持台等の光学部品を取り付けて回転可能にし、カメラ等の撮像装置と接続した。この顕微鏡を用いて、ゼブラフィッシュ仔魚に前庭刺激を与えたときに活動する脊髄ニューロンを解析することができるようになった。光学実験系の改良に伴い、解析に用いる遺伝子組み換え魚を構築した実験系で使えるように作成し直す必要があったため、本研究目的である前庭脊髄路から入力を受ける脊髄ニューロンの同定には、研究期間内に至らなかったが、候補となるニューロンの探索を進める手法を確立することに成功した。
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