前年度までの研究で、傍細胞記録・染色法によって標識された下丘細胞65個の形態学的特徴、生理学特性、空間配置についての生データの収集が完了した。推測のとおり、下丘に存在する大型抑制性細胞、小型抑制性細胞、興奮性細胞は異なる形態学的性質をもち、それに対応するように生理学特性にも違いが見られた。しかしながら、特に興奮性細胞は非常に多様な生理学特性を示していたことから、単に形態と生理の関連を見るだけでは片手落ちなのではないか、と考え、最終年度は標識細胞の分布と生理学特性との関連を更に詳しく調べることとした。 サンプル数の多い大型抑制性細胞と興奮性細胞について、各々の細胞の生理学特性と空間座標をプロットし、同一細胞種および異なる細胞種について、生理学特性の相違度の細胞間距離に関する関数(dissimilar index)を算出し、この関数と、細胞がランダムに分布していた場合の関数を5000回算出することによって求めた95%信頼区間を比較した。すると、いくつかの生理学特性について、近隣の細胞がより類似した性質を有する、すなわち地図表現が存在することと、この地図表現が大型抑制性細胞と興奮性細胞で異なることが明らかとなった。近隣の細胞は視床の同じ領域に投射することから、異なる生理学特性をもった興奮性細胞と大型抑制性細胞からの出力が視床で収束することで新たなる情報表現が生まれることを示唆している。本内容を追加して、論文を執筆しているところである。
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