研究課題/領域番号 |
16K07030
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
船越 健悟 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (60291572)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / 一次感覚神経 / 後根神経節 / コンドロイチン硫酸 / ペリニューロナルネット |
研究実績の概要 |
脊髄を新生仔期(P5)に完全切断したラットにおいては、補償的一次感覚神経の脊髄投射が増加し、運動機能の回復も認められる。一方、脊髄を幼若期(P20)に完全切断したラットにおいては、補償的一次感覚神経の脊髄投射が増加するにも関わらず運動機能の回復はみられない。私たちは腰髄運動ニューロンにおける Perineuronal nets(PNNs)の発現パターンの違いが運動機能の回復に影響を及ぼしている可能性があると考え、P5, P10, P15, P20に胸髄を完全切断したモデルを作成し、それぞれ2週間後における PNNを、コンドロイチン硫酸(CS)鎖の主成分であるCS-AとCS-Cに着目して解析した。 その結果、CS-A陽性PNNの発現率は、運動機能が回復しないP15完全切断モデルにおいてコントロールに比較して有意に低下し、P20完全切断モデルにおいても低いままだった。これに対し、CS-C陽性PNNの発現率は、運動機能が回復しないP15完全切断モデルにおいてコントロールに比較して有意に上昇しており、P20完全切断モデルにおいても高いままだった。一方、運動機能が回復するP10完全切断モデルにおいてはコントロールと比較して低い傾向がみられた。 このことから、CS-C陽性PNNが一次感覚神経と運動ニューロンとのシナプス形成を阻害している可能性があると考え、P20完全切断モデルにおいて両者の関係を詳細に観察したところ、CS-C陽性PNNを発現している運動ニューロンには神経終末が認められないのに対し、CS-C陽性PNNを発現していない運動ニューロンには神経終末が確認された。 したがって、PNNに発現しているCS-Cはシナプス形成を阻害することによって、幼若期に完全切断を受けたラットの運動機能の回復を抑制している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の29年度の研究実施計画では、Perineuronal nets(PNNs)の解析に、CS-56やDSD-1など、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン全体を標識する抗体を用いた免疫組織化学を予定していたが、28年度中に行った予備的実験において、PNNにおけるコンドロイチン硫酸の発現が、主成分であるCS-AとCS-Cで大きく異なっている可能性があることに気付いたため、両者を別々に解析することにした。したがって、当初の予定より解析に時間がかかってしまったが、結果として興味深い知見を得ることができた。 一方、当初28年度に予定していて、29年度中には着手するつもりでいた、(1)P5完全切断モデルにおける一次感覚神経の前角や中間質への投射の解析、(2)P10, P15, P25完全切断モデルにおける一次感覚神経の前角や中間質への投射の解析、(3)一次感覚神経と運動ニューロンとのシナプスの確認、は実施できなかった。 また、当初29年度に予定していた、一次感覚神経における神経栄養因子受容体発現の検討も実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
29年度に得られた研究成果のうち、運動ニューロンにおけるCS-C陽性PNNの発現と、一次感覚神経の終末との関係については、P20完全切断モデル以外のモデルにおいても確かめるなど、さらに詳細に検討する必要があると考えている。この実験は当初の予定には入っていなかったものの、本研究課題を遂行する上で極めて重要であると考えられるため30年度も優先して取り組む。 また、当初28年度に予定していたもののまだ実施に至っていない、(1)P10, P15, P25完全切断モデルにおける一次感覚神経の前角や中間質への投射の解析、(2) ChX10などによって標識されるCentral pattern generater (CPG)ニューロンへの一次感覚神経の投射の解析、についても、30年度の早い段階で実施し、一次感覚神経の補償的脊髄投射の全体像を明らかにしたい。 一方、電子顕微鏡におけるシナプスの確認は、これら光学顕微鏡的観察が終了した後に着手することとし、神経栄養因子受容体の発現については、TrkCに焦点を当てて解析を進める。
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