脊髄を新生仔期に切断したラットと幼若期に切断したラットにおける後肢運動機能回復の違いには、腰髄運動ニューロン周囲に形成されるペリニューロナルネット(PNN)が関係していると考え、PNNの主成分であるコンドロイチン硫酸(CS)の発現を脊髄切断2週後に調べたところ、新生仔期に脊髄を切断したラットでは、CS-A陽性PNNとCS-C陽性PNNの発現率はともに無傷群に比べ低かったのに対し、幼若期に脊髄を切断したラットでは、CS-C陽性PNNの発現率が無傷群に比べ高い傾向がみられた。 このことから、CS-C陽性PNNの発現が一次感覚神経と運動ニューロンとのシナプス形成に影響を与えていると考え、平成30年度は新生仔期脊髄切断群と幼若期脊髄切断群のL5後根神経節に順行性トレーサーであるデキストランアミン(DA)を注入することで一次感覚神経を標識し、腰髄運動ニューロンに投射する一次感覚神経とPNNとの関係を調べた。その結果、腰髄運動ニューロンに投射する一次感覚神経の大部分は、運動ニューロンの細胞体においてCS-AやCS-Cに覆われていない部分に終末していることが明らかになった。このことから、PNNにおけるCS-AとCS-Cはともに、一次感覚神経の運動ニューロンへのシナプス形成に抑制性の役割を果たしていることが示唆された。 また、これまでの研究から、腰髄運動ニューロン周囲のPNNにおいて、CS-Aは正常の発達過程とともに徐々に減少するのに対し、CS-Cは増加することが明らかになった。両者の違いは、運動機能の発達に関連するシナプス入力の調節に関係している可能性がある。
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