研究課題/領域番号 |
16K07034
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
金子 律子 (大谷律子) 東洋大学, 生命科学部, 教授 (00161183)
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研究分担者 |
五嶋 良郎 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (00153750)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 性差 / CRMP4 / 自閉症 / 社会性行動異常 / 感覚異常 / 遺伝子発現変化 / 突起伸長 / 突起分枝 |
研究実績の概要 |
本研究は、性的二型核である視索前野の前腹側脳室周囲核(anteroventral periventricular nucleus: AVPV)に関するプロテオミクス解析により、CRMP4タンパク質を性差形成に関与するタンパク質の候補として同定した(Iwakura et al., 2013)ことに端を発している。その後、発生過程でのCrmp4 mRNAの発現変化Tsutiya & Ohtani-Kaneko, 2012)、CRMP4欠損マウスを用いたCRMP4タンパク質の脳での層構造形成などにおける役割を示した(Tsutiya et al., 2015, Tsutiya et al., 2016)。その後、男女差が明瞭であることで知られる自閉症の男児患者のwhole-exome sequencing により、CRMP4遺伝子のみに点変異のある症例が見つかった。29年度は、以下の解析を行い、CRMP4欠損マウスと野生型マウスの雌雄間で比較した。①行動テスト、②超音波発声テスト(仔マウスの感覚テスト)、③neurotransmitter関連の遺伝子の発現。①行動テストのうち、CRMP4欠損マウスと野生型マウス間で有意差が見られたのはSocial interaction testとThree chamber testであったが、いずれも雌に比べ雄での異常が顕著であった。②では、匂い感覚と温度感覚についてCRMP4欠損マウスでは異常が見られたが、特に温度感覚ではCRMP4欠損雄仔マウスに際立った異常が見られた。③神経伝達物質に関連した遺伝子の発現について、Crmp4欠損マウスでは脳部位により野生型とは異なる雌雄差の出現が見られた。これらのことから、CRMP4が神経回路の性差形成に関わる可能性を強く示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
雌雄差形成タンパク質として自分たちで同定したCRMP4について、その機能を多方面から調べていた。最近、自閉症は雌雄差の明瞭な精神疾患である自閉症男児患者にCRMP4遺伝子の点変異が見つかった(共同研究)。自閉症では社会性行動の欠損や感覚異常が診断基準となっている(DSM-5)ことから、CRMP4欠損マウスの雌雄を用いて、様々な行動実験や感覚実験を行い、社会性や感覚異常を見出し、それらが雄で特に顕著という雌雄差があることを見出せた。さらに遺伝子発現についても、CRMP4欠損マウスでは、野生型マウスで見られなかった雌雄差が出現することが分かった。これらからCRMP4タンパク質が関わる脳の性差について、本研究により全く新しい発見を導くことができている。そのため、当初の計画以上に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、CRMP4が欠損することにより、社会性行動の低下や感覚異常などが雄に強く出ることが分かった。さらに遺伝子発現に関しては、脳部位により影響がでる遺伝子が違うものの、野生型では見られなかった雌雄差が出現することが分かってきた。しかし、CRMP4が欠損すると、なぜ行動や感覚や遺伝子発現に野生型とは異なる雌雄差が生じる様になるのか、そのメカニズムが未だ不明である。 初代培養細胞を用いた実験から、CRMP4欠損マウス由来の神経細胞は、樹状突起伸長や樹状突起の分枝が、野生型より増加した。またその増加は、Crmp4遺伝子の導入により抑えられた。海馬ニューロンに関しては、この結果に雌雄差は見られなかった。そこで今後は、野生型およびCRMP4欠損マウス由来の培養細胞の突起伸長や分枝、および遺伝子発現に対するホルモンやホルモン受容体の影響を、海馬や視床下部ニューロンを用いて調べる培養実験を行う予定である。さらに、CRMP4の欠損により、他のCRMPsの発現に変化が起きることも分かってきた。つまり、CRMP4欠損の影響が、他のCRMPsの発現増加を介してニューロンの形態や遺伝子発現、延いては行動や感覚異常を引き起こしている可能性も考えられる。そこで、他のCRMPsを介する経路を特異的なsiRNAの添加により抑え、CRMP4欠損の影響がダイレクトに効いているか検証する実験も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度が追加採択であり、平成28年の秋に交付されたため平成29年度にかなりの金額を繰り越すこととなった。平成29年度は予定通り実験を実施したが、実験計画が後ろにずれ込んでおり、平成30年度への繰越金が生じた。平成30年度にすべての実験を終了予定であり、支給助成金は主に分子生物学実験や培養実験に使用する消耗品等として使用する予定である。
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